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へしことは
あまり聞き慣れない「へしこ」とは、いったいどんな食品なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
新鮮な魚を1〜2年もの間ぬか漬けに
へしことは、ぬか漬けにした魚のことで、昔から越冬の際の保存食として福井県の若狭地方で親しまれてきました。そのなかでも特に代表的なものが鯖のへしこです。脂が乗った鯖を塩漬けにした後、塩を落としてから醤油やみりん、唐辛子などで調味し、1~2年間ぬかに漬け込んで出来上がります。
塩とぬかだけで漬けたぬか漬けは塩辛さが強くなりますが、下味を付けることで食べやすく飽きない味わいになっています。調味料などを工夫して各家庭の味を出すことで、地元では珍味としてではなく日々の食卓に上る身近な料理として愛されるようになったのです。
「海のチーズ」とも呼ばれるへしこは、発酵によるコクと華やかな香り、甘み、魚の旨味が特徴です。ぬかを落として水で洗い、薄くそいでそのまま食べるだけでなく、食べやすい大きさに切ってから軽くぬかを落とし、サッとあぶってから食べると香ばしさを楽しむこともできます。
旨味と塩味がしっかりとしているので、お茶漬けやご飯のお供、酒の肴としておいしくいただけるほか、刻んでパスタやピザ、サラダにトッピングしたり、炒飯に入れるなど、アイデア次第でさまざまな料理でも活躍します。
イワシやふぐも
最も生産量が多く一般的な鯖のへしこのほかに、イワシのへしこやふぐのへしこもよく食べられています。ハタハタやイカ、ニシン、ブリを使ったものもあり、地元の商店や物産展ではバラエティーに富んだ商品を年間を通して購入することができます。
漬け方についても、製造者の多くが独自の材料や味付けでオリジナリティーのあるへしこを生み出し続けています。
時化で漁に出られない日本海の保存食がルーツ
日本海で育まれた美味なる魚介類が豊富に獲れる福井では、昔から海産物加工の技術が発展してきました。へしこもその一つで、鎌倉時代から作られていたという文献もあります。
寒さの厳しい北陸では11月末ごろには日本海が時化(しけ)て漁に出られないことが多いため、冬を乗り越える保存食としてへしこが作られてきました。全国的に農産物の漬物は一般的ですが、海産物の漬物は珍しく、へしこは福井を代表する郷土料理となりました。
「へしこ」という呼び名の由来は諸説あり、一つには魚を塩漬けにした際に出てくる水分を指す「干潮(ひしお)」という言葉が訛ったという説があります。また、この地方では木樽に鯖を漬け込むことを指す「圧し込む(へしこむ)」という漁師言葉があり、ここから来たという説もあります。
アイヌ語(縄文弥生語)で、「滲み出てくる水分が味や保存性を産む」という意味を持つ「pe-si-kor(へしこ)」に由来するという説もあります。
また、福井県の他には、石川や丹後半島などでの製造が盛んです。
豊富な栄養素
発酵食品であるへしこは、ぬか由来の新陳代謝を促すビタミンや、青魚由来のドコサヘキサエン酸、ミネラルやアミノ酸などの栄養素を豊富に含んでいます。発酵によってアミノ酸とペプチドが増えるため、血圧の抑制効果が期待され、夏バテにも効くとされています。
昔は食糧の安定確保が難しかった冬季の動物性タンパク源として重宝されてきた「へしこ」。現代においてもその栄養価の高さに注目が集まっています。塩分の摂りすぎには注意しながら、上手にへしこの栄養素を享受したいですね。
へしこのおいしい食べ方
まずはお刺身から
へしこをお刺身として食べる場合は、以下の手順で調理しましょう。
- 手順1へしこに付いているぬかを落とす
- 手順2しっかり水洗いしてから水気を拭き取る
- 手順3へしこを3枚におろして、ハラ骨をそぎ落とす
- 手順4皮をていねいに剥がす
- 手順5へしこを1ミリ程度のそぎ切りにする
焼かずにお刺身で食べることで、熟成された鯖の味わいがより引き立ちます。
焼きへしこ
へしこを焼いて食べる場合は、以下の手順で調理しましょう。
- 手順1へしこに付いているぬかを軽く落とす(すべて落とす必要はありません)
- 手順2適当なサイズにカットする
- 手順3オーブンやグリルを使用して、ぬかに軽く焦げ目が付く程度に数分焼く(焼きすぎると真っ黒になってしまうため注意)
- 手順4お好みでレモンやポン酢をかける
ぬかを付けたまま焼くことで、とても香ばしい香りが食欲を誘います。口に入れた瞬間にしみ出す鯖のほどよい脂と強い塩気で食が一気に進むこと間違いなし。ごはんのお供としてもお酒のおつまみとしてもおいしくいただけるでしょう
お茶漬けで落ち着いた味わいに
焼きへしこだけでも十分おいしくいただけますが、へしこ茶漬けもおすすめです。強い塩気が効いた焼きへしこに温かいお茶を注ぐことで味が落ち着き、また違った味わいになります。海苔やごま、わさび、梅干しなどをお好みでトッピングして、味の変化も楽みながら食べられる逸品です。
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越前かに問屋「ますよね」 伝統珍味サバの糠漬けへしこ
越前かに問屋「ますよね」の「伝統珍味サバの糠漬けへしこ」は、へしこの脂のジューシーさと濃厚な旨味を味わうことができる逸品。味わいの決め手となる糠床には契約農家から仕入れた福井産こしひかりの米ぬかとミネラル豊富な赤穂産のまろやかな天然塩、大切に育てられた米こうじを使用しており、秘伝の調味料で味付けをしています。
お店がおすすめする食べ方は、お茶漬け、焼きへしこ、パスタ、じゃがいものクリーム煮、ねぎのバゲットピッツァです。レシピは商品に同梱される「鯖のへしこのお召し上がり方」という書面で確認できます。
越前田村屋 鯖のへしこお刺身
越前田村屋の「鯖のへしこお刺身」は、スライスされた鯖のへしこが真空パックに入った商品。こだわりの製法と原材料で作られたへしこを使用し、丁寧な手作業によって作られています。米ぬかを洗い落としてから骨と薄皮を取り除き薄く切られているので、そのまま生で食べることができます。
よく漬け込まれて旨味が増したへしこはお刺身やお寿司にピッタリ。そのまま何も付けずに食べられますが、お好みで酢醤油やレモン、酢などに付けてもひと味違った風味を楽しむことができます。下処理が不要なので、さまざまな料理にもそのまま使える手軽で便利な商品です。
荒忠商店 いわし糠漬け(へしこいわし)
荒忠商店の「いわし糠漬け(へしこいわし)」は、日本海で獲れたウルメイワシを使用した逸品。料理研究家である岸朝子の著書「日本の食遺産」や「全国5つ星の絶品お取り寄せ帖」で紹介されています。
「いしる(魚醤)」にも使用されるウルメイワシは旨味が強く、へしこファンから好評で、昔ながらの懐かしい味わいが特徴です。水洗いではなく手でぬかを落とし、軽くあぶってから酒の肴やおかず、お茶漬けなどで楽しむことができます。
荒忠商店 ふぐの子糠漬け
荒忠商店の「ふぐの子糠漬け」は、日本海の近海で獲れたゴマフグの卵巣を使用した逸品です。伝統製法により塩漬けに1年、ぬか漬けに2年かけて発酵させた高級珍味で、こちらの商品も上記の著書で紹介されています。
魚卵の独特の風味と食感が特徴で、魚のへしこと同様に酒の肴やお茶漬けなどで楽しむことができます。水洗いではなく手でぬかを落とし、スライスしてそのまま、あるいはアルミホイルに包んで軽くあぶってからいただきます。
福井ゆるキャラ「へしこちゃん」とは
ゆるキャラアワードでも入賞
福井県三方郡美浜町のマスコットとして2006年に誕生した「へしこちゃん」。頭部に赤いリボンを付けた可愛らしい鯖で、胴体の部分には樽をあしらったユニークな風貌です。「ゆるキャラアワード2009」ではグランプリを獲得し、2010ゆるキャラまつりin 彦根(携帯版)では人気投票で5位になりました。
へしこちゃんプロフィール
1983年(昭和58年)の秋に生まれ、本名は美浜野へし子。父は美浜野サバ男、母はサバ子という家族構成で、本籍地は若狭湾日向沖3キロほど、現住所は福井県美浜町郷市25-25美浜町役場。美浜中学校と美方高校(食物科)ではボート部に所属し、卒業後はノルウェー沖大学へ留学。
現在は美浜町役場の商工観光課で観光キャンペーンガールとして活躍中。プライベートではコシヒカリ糠男という彼氏がいる。各地のイベントでPR活動を頑張っているへしこちゃん。見かけた際にはぜひ応援してあげてください。
福井が生んだ「へしこ」の滋味豊かで奥深い風味をしみじみと味わいながら、その伝統ある郷土料理を育んだ北陸の厳しい寒さと豊かな日本海に思いを馳せてみるのも一興です。