この記事の目次
インバウンドの意味
インバウンドとは
インバウンドは英語の「Inbound」から来ており、直訳すると「到着する」という意味の形容詞になります。近年は観光分野のキーワードとしてニュース・新聞・ネットでよく耳にするようになりました。
日本で使われるインバウンドという単語は一般的に「訪日外国人旅行」と訳され、外国人が日本へ訪れる旅行のことを指します。
アウトバウンドとは
アウトバウンドは英語の「Outbound」から来ており、「外国行きの」という意味の形容詞。
インバウンドとは反対に日本人が海外へ旅行することを指します。
インバウンドが盛り上がっている背景
2013年以降に盛り上がりを見せるインバウンド需要ですが、その背景には経済的・地理的・政策的な要因が関わっています。
- 日本のビザ取得のための基準と手続きが緩和されたため、入国がしやすくなった
- アジアを中心に富裕層が増加したため、海外旅行者数も比例して増えた
- 日本の位置が富裕層の増加が特に著しいアジアの国々から比較的近い
- 免税の対象品と導入店舗を増やしたことで日本での買い物がさらにお得になった
上記以外にも、和食が無形文化遺産に登録されたことやアニメ・ゲームをはじめとする日本文化が人気になっていることも挙げられます。多くの要因が絡み合うことで、インバウンドは過去に類を見ないほど盛り上がりを見せているのです。
インバウンドが期待されている背景
インバウンドが盛り上がると同時に期待されているのはなぜでしょう。
内需の減少
一つには国内の需要の減少があります。日本では、高齢化と人口減少によって国内での経済効果はどうしても下火になってしまいます。訪日外国人に狙いを定めて需要を獲得することで、業界内の景気が少しでも回復することを期待しているのです。
非繁忙期の埋め合わせ
日本人だけをターゲットにすると、祝日も一緒であるため宿泊施設・観光施設は繁忙期と非繁忙期で収益に大きな差が生まれます。
しかし、海外からの観光客は、施設が混まないようにあえて繁忙期を外して訪れることも多くあります。つまり、普段は利益の望めない非繁忙期の需要を埋める形で利用してくれるのです。
政府が実施するインバウンド事業
日本は平成28年3月、観光先進国に向けて「明日の日本を支える観光ビジョン」という新たなインバウンド事業への取り組みを開始しました。ここで掲げられている政策を見ていきましょう。
「観光先進国」に向けて
日本は、ビザ取得基準の緩和・免税対象の拡大・航空ネットワークの拡大などさまざまな改革に取り組み続けてきました。
そのかいあって、2013年~2016年の間に訪日外国人の旅行者数は約2000万人と2倍以上、消費額は約3.5兆円と3倍以上にもなりました。この額は自動車部品産業の輸出総額にも匹敵するほどです。
日本は観光振興に必要な自然・食・気候・文化という4つの条件を兼ね備えている世界でも珍しい国の一つで、この豊富な観光資源を開花させることは日本の観光事業を輝かしい未来へと導くことにつながります。
そのために、従来掲げていた目標を大幅に修正し、かつ高品質な観光交流を推進させるべく以下の新たな目標を設定しました。
訪日外国人旅行者数
- 2020年の旅行者数:4000万人(従来の目標は2000万人)
- 2030年の旅行者数:6000万人(従来の目標は3000万人)
訪日外国人旅行消費額
- 2020年の消費額:8兆円
- 2030年の消費額:15兆円
地方部での外国人のべ宿泊者数
- 2020年の宿泊者数:7000万人
- 2030年の宿泊者数:1億3000万人
外国人リピーター数
- 2020年のリピーター数:2400万人
- 2030年のリピーター数:3600万人/li>
日本人国内旅行消費額
- 2020年の消費額:21兆円
- 2030年の消費額:22兆円
観光先進国実現のためには
観光先進国として日本が成長すれば、日常的に外国人観光客との異文化交流が育まれるようになり、新たなイノベーションが創出され、各地域の経済が強化する、という好循環が生まれます。
この状況を作るためには、日本の持つさまざまな観光資源を磨き上げ、その素晴らしさを外国人にも日本人にも伝えていかなければなりません。
そのためにも、宿泊施設や観光施設・通信サービス・交通機関などの受け入れ環境の整備を早急に進めていく必要があります。あわせて、高齢者と障がい者を含む全ての旅行者が「日本の素晴らしさ」を実感できる社会を構築していくことも重要です。
福島県のインバウンド復活に向けた新たな取り組み
3つの視点と10の改革
政府は、観光事業が日本の成長戦略と地方創生のための大きな礎であるという認識のもと、観光先進国実現に向けて3つの視点と10の改革を制定しました。
視点1:観光資源の魅力を伝え、地方創生の礎とする
日本の魅力ある公的施設を世界に広めていく
赤坂・京都にある迎賓館をはじめとして、日本の歴史と伝統を感じられる公的施設を一般向けに公開・開放して観光客数の増加を狙います。
(例)
・2016年の4月19日から支障のない範囲内で赤坂迎賓館の一般公開を実施
・2016年の7月下旬から支障のない範囲内で京都迎賓館の一般公開を実施
文化財を観光資源として強化する
2020年までに文化財を有する観光地の整備を200拠点で、多言語で分かりやすい解説を追加する取り組みなどを1000件ほど実施させます。
(例)
・文化財の観光資源としての価値を高めるため、修理・整備・美装化への支援
・日本各地における文化財の情報を発信するためのポータルサイトの作成
「国立公園」を「ナショナルパーク」としてブランド化
2020年までに全国5ヵ所の公園を世界水準のナショナルパークとして生まれ変わらせる取り組みを行います。この取り組みによって、外国人の国立公園利用者数を年間430万人から1000万人に増やすことを目標としています。
(例)
・自然と温泉を活かした活動の充実
・電線の地中化による景観の保護
・高水準のガイドの育成
美しい街並みを保全・活用する
景観の優れた観光地の魅力を向上させるために国から専門家チームを派遣し、日本全国各地で調査を行っています。
(例)
・歴史上価値の高い建造物が建っている地域で無電柱化を推進
・外国人旅行者向けに「周遊ルート」を作成し、トイレや休憩施設を設置
視点2:観光産業を革新して日本の基幹産業に
古い規制を総合的に見直す
60年以上あまり変化のない規制と制度の根本的な見直しのほか、人材育成・民泊サービスの整備・宿泊施設不足の解消を推進しています。
(例)
・質の低い旅行プランを提供する問題ある事業者に対して適切な指導を行える制度の導入
・大学における観光学部のカリキュラム変更による人材育成の強化
・宿泊拒否制限の設定・衛生管理の徹底・迷惑行為防止措置をはじめとする民泊サービスの適切な見直し
・古民家の活用やリノベーションを行う事業者に金融的な支援を行う
日本文化の魅力を伝え、長期滞在と消費拡大を同時に実現させる
増加した富裕層をターゲットにプロモーションの品質を向上させることで日本文化のさまざまな魅力を知ってもらい、長期的な滞在と消費の拡大を促進します。
(例)
・日本の歴史や文化・アニメ・ゲーム・食文化など多様な魅力を欧米に向けて発信する
・外国人旅行者が必要になるであろう情報を網羅できるスマホアプリの開発
・発展途上国のテレビ局へ日本のアニメ・ドラマを無償で提供し、日本のファンを増やす
疲弊した温泉街や地方都市を多様なニーズにあわせて活性化
観光地再生・活性化ファンドや規制緩和を駆使して、安定的かつ継続的な観光都市を実現します。
(例)
・若者割引サービスなどを開発・普及させることで若年層の地方旅行を促進する
・温泉街を立て直すために地元の金融機関とREVICが投融資を行う
視点3:全ての旅行者が快適に観光できる環境へ
最先端技術を活かして通信環境を飛躍的に向上させる
世界最高水準の技術を活用することで、訪日外国人旅行者に対して最適なサービスの提供を行います。
(例)
・他言語翻訳システムと個人ニーズの把握によって最適な観光情報を配信する
・新幹線と高速バスの予約を海外のインターネットから可能にする
・主要な商業施設や宿泊施設におけるクレジットカード決済・ICカード決済の完全対応によるキャッシュレス観光を実現する
・交通機関・観光スポットにおける高水準のユニバーサルデザイン化
「地方創生回廊」の完備
日本各地を旅してもらうため、鉄道ネットワーク・高速道路網・航空ネットワークを活用した「地方創生回廊」を完備します。
(例)
・これまでは海外の限られた場所でしか購入できなかった「ジャパン・レールパス」を日本国内でも買えるようにする
・新たな新幹線の開業・空港コンセッションを推進し、観光地への交通アクセスを充実させる
休暇の改革
日本国民の一人ひとりが仕事と休日を両立するため、働き方改革を推進します。
(例)
・2020年までに年次有給休暇の取得率をおよそ70%にまで向上させる(2014年時点で47.6%)
インバウンド事業によってより多くの外国人観光客を集めるためには、地方と都市、そして私たちと国の連携が不可欠です。日本の魅力を海外へ継続的に発信して観光事業を発展させることで、経済・地域の成長へとつなげていきたいところです。