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地産地消の目的は地域活性化にシフト
地産地消とは、「地域生産」「地域消費」を合わせて略された単語です。地域で生産された作物を同じ地域で消費することを指します。
健康だけでなく生活に密着した概念に変化
地産地消という言葉は、1981年に農林水産省の生活改善課によって実施された「地域内食生活向上対策事業」が発祥です。
その当時の地産地消は「地域農民に足りていない栄養素を含んだ食物を、その地域で生産・消費して食生活を見直す」ことをコンセプトとしており、健康に重きを置かれた考え方でした。
一方、現代の地産地消に込められているのは「地域の活性化」「食育」「エコロジー」といった、より人間の生活に密着した考え方です。
地域の活性化
- 地域で収穫された食物を食べることで、伝統的食文化の維持や継承が行える
- 地域の生産者と地元の消費者が結びつくことで経済効果を生み出し、地域活性化につながる
食育
- 下降している食料自給率の向上に役立つ
- 農業体験などを通じて食や農業への理解が深まる
エコロジー
- 農林水産物の輸送距離が縮まるため、排気ガスなどの排出量が削減されて環境が保全される
- 地域の農耕地とそれを取り巻く環境が守られる
戦後急速に発展した日本では多くの食品が海外から輸入されるようになり、生産者と消費者の距離が遠くなってしまいました。「自分の口に入るものを自分の目で確かめられない」そんな不安を抱える人も増えています。
地産地消が多くの人に受け入れられるようになったのは、昔から受け継がれてきた営みを取り戻したいという願いの表れとも言えるでしょう。
地産地消に必要な取り組み
地産地消が効果的に行われるためには、以下のようなさまざまな取り組みが必要となってきます。
- 安定した生産量の維持
- 消費者ルートの確保
- 生産者の経済的安定
- 地域農業および関連事業の活性化
- 地産地消を継続していくための人材育成
地産地消の活動は決して一時的な効果を得るためのものではなく、将来にわたって安定して継続していかなければならないものです。需要と供給のバランス・それを支える環境の維持、そして、これらを永続的に構築できる社会的構造を作り上げることで、地産地消は本当の意味で人びとの生活に根付くことができます。
長く続いた生産者と消費者との間の遠い距離を簡単に縮めることは難しいですが、食に対する意識が高まっている現代社会において、地産地消に向けたチャレンジが全国的に広がりを見せています。
地産地消の取り組み事例
地産地消としてどのような取り組みが行われているか、それぞれ見ていきましょう。
直売所
生産者が自ら販売を行える直売所は、農家の自宅や畑のすぐそばに設置されているだけではなく、地元スーパーの一角や農協による設置まで幅広い形態で存在しています。
メリットとしては、
- 中間マージンがなく(あるいはほとんどゼロに近く)生産者に収益のほとんどが入る
- 生産者が直接持ち込む小規模流通のため、低コストでエコロジーである
- 生産者の名前や顔写真を貼り付けることで消費者に安心感を持ってもらえる
などが挙げられます。具体的なメリットについては以下のページで詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
地産地消のメリットを詳しく解説!SDGsとの関係やデメリットは?道の駅
道の駅は、各都道府県の自治体と道路管理者によって設置された施設です。高速道路のサービスエリアと同様に「長時間のドライブで休憩をする場所」という意味を持たせながら、他方で地域情報のPRや交流の場としての役割を担っています。
地域外からも多くの人が訪れる道の駅では、その地域の生産物や目玉となる商品の販売が行われており、地産地消の枠を超えた活発な活動が盛んです。
道の駅による活動内容
- 生産者が直接販売できるルートの確保
- 地域の生産物や特産品のPR
- 地域情報の交換と人びとの交流
「あの場所でしか買えない」「あの人が作った商品が買いたい」という特別感を持ってもらうことも、地産地消を進めていくうえで大切なポイントとなります。道の駅では、地域の地方自治体とそこに暮らす人びとが一体となった活動が日々行われているのです。
福祉施設
介護施設や病院といった福祉施設でも、地産地消の取り組みを垣間見ることができます。地産地消の原点にあるのは「地域食材を積極的に消費して健康的な身体を作る」という考えです。
医食同源という言葉があるように、食事と医療は昔から密接な関係性があり、
- 地域性があり馴染みのある食材が食べられる
- 新鮮でおいしい
- 地域に密着した販売ルートを確保している
上記が取り入れられた食事はまさに「食べる治療」です。
高齢化が進む現代社会において、福祉施設への活用は今後も拡大する可能性を秘めています。経済効果だけではなく、介護や医療現場での楽しみとして地産地消への取り組みが積極的に行われています。
観光施設
旅先で出会う珍しい食材やおいしい食事は、訪れた観光客の目当ての一つでもあります。地域で収穫された食材を観光地で活用することは、地域内での消費だけではなく地域外へのPRとしても大きな役割を果たしています。
- 旬の食材を使った料理の提供
- 地域の特産物を旅館やホテルで販売
- 郷土料理や食文化の保全
など、旅館やホテルなどで積極的に地域の食材を活用することは、物理的な地産地消だけではなくその土地の食文化や特産品のPRにもつながります。多くの人と食を通した交流を行うことで、継続した地産地消の取り組みがなされています。
地産地消による地域活性化や経済効果を支える支援
最後に、地産地消を進めて地域活性化や経済効果をもたらすために行われている支援や活動を紹介したいと思います。
食料産業・6次産業化交付金
6次産業とは、生産者が食品加工や販売業務まで行っている経営形態のことを指します。観光農園や農園レストランなどがこれにあたり、新しい農林水産業の形として国も積極的な支援を行っています。
「食料産業・6次産業化交付金」は、農林水産業の生産者が6次産業化を行うために必要な施設整備やネットワーク活動などを支援する政策で、主に以下の支援が行われています。
- 商品開発や販売ルートの確保といった6次産業化を推進するための活動支援
- 6次産業化に必要な農林水産物の加工・販売施設設備や機械の導入に対する支援
- 地域の観光地や学校給食・福祉施設といった他業種とのマッチングや、販路開拓のためのネットワーク活動の支援
- 廃棄物バイオマスを有効的に活用させるための支援
生産者が6次産業化することで、地産地消が推進されるだけではなく生産者の収入増にもつながり、衰退しつつある生産者の減少を食い止める効果も期待されています。
6次産業化のメリット・デメリット|失敗事例もビジネスモデルのヒント地産地消給食等メニューコンテスト
「地産地消給食等メニューコンテスト」は、農林水産省により実施されている地産地消の推進を目的としたコンテストです。対象となるのは学校給食や社員食堂・外食・弁当などで、地元の農林水産物を活用して考案されたメニューが審査されます。
- 個人以外の消費者に対する地産地消の推進
- 企業や団体と生産者との交流
- 地域活性化と国産農林水産物の消費拡大
こうした目的もさることながら、昔からある料理を現代風にアレンジしたり新たなメニューが開発されたりすることで、地元の食材に対する認識が高まり、利用が増えるというメリットもあります。
地産地消は、食べ物を通した人間同士のつながりをもう一度取り戻す大切な取り組みです。毎日の食事のなかで、何か一つ、地域の生産物を取り入れるところから始めてみてはいかがでしょう。