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レアメタルとは
レアメタルの定義には国際的な一定の基準があるわけではありません。日本においては「鉱業審議会レアメタル総合対策特別小委員会」により定められ、以下の観点から希少であると判断された計31種類の鉱物がレアメタルと呼ばれています。
- 地球上に存在する量が少ない
- 技術的にも経済的にも抽出することが困難である
- 主に工業分野での需要(もしくは今後の見込み)がある
- 安定供給へ向けた政策的な取り組みが必要である
世界各国もそれぞれの基準によりレアメタルを定めていますが、その内容は鉱物の使用目的により多少の違いがあります。また、今後の技術的開発によっては、現在選定されているレアメタルの種類が増減する可能性もあります。
金属の種類
金属は大きく分けて三つの種類に分類されます。それぞれにどのようなものが含まれているのか、その詳細を見てみましょう。
ベースメタル
生産量が多く、さまざまな形で使用されている金属のことをベースメタルと呼びます。ベースメタルは日常的にもよく知られている金属で、生活のなかでも身近に感じられる種類のものです。
- 精錬する(抽出する)ことが簡単である
- 地球上の広範囲に大量に存在している
- 産業のベースとして使用されている
このような観点から、鉄・銅・アルミニウム・水銀・鉛・亜鉛・錫(すず)といった金属がベースメタルと呼ばれています。
貴金属
貴金属は、地球上での存在が希少で耐腐食性(錆びたり腐ったりしにくい)に優れた金属を指します。全部で8種類の元素が貴金属とされ、工業用だけではなくアクセサリーなどの装飾品にも活用されている金属です。
金・銀・白金(プラチナ)といった馴染みのあるものから、パラジウム・ロジウム・イリジウム・ルテニウム・オスミウムという普段耳にしない元素まで幅広く利用されています。
レアメタル
レアメタルは、地球上に存在する量の少なさや採掘・精錬のコストが高いもののうち、工場などでの需要があり安定的に供給の確保が必要な金属を指している言葉です。
例えば、チタンは埋蔵量から見ると決して希少ではないのですが、純度の高いチタンを精錬するためには高い技術とコストが必要とされているため、分類としてはレアメタルになる、という具合です。
レアメタルの種類一覧 | |||
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リチウム 元素記号「Li」 | ベリリウム 元素記号「Be」 | ホウ素 元素記号「B」 | レアアース 希土類 |
チタン 元素記号「Ti」 | バナジウム 元素記号「V」 | クロム 元素記号「Cr」 | マンガン 元素記号「Mn」 |
コバルト 元素記号「Co」 | ニッケル 元素記号「Ni」 | ガリウム 元素記号「Ga」 | ゲルマニウム 元素記号「Ge」 |
セレン 元素記号「Se」 | ルビジウム 元素記号「Rb」 | ストロンチウム 元素記号「Sr」 | ジルコニウム 元素記号「Zr」 |
ニオブ 元素記号「Nb」 | モリブデン 元素記号「Mo」 | パラジウム 元素記号「Pd」 | インジウム 元素記号「In」 |
アンチモン 元素記号「Sb」 | テルル 元素記号「Te」 | セシウム 元素記号「Cs」 | バリウム 元素記号「Ba」 |
ハフニウム 元素記号「Hf」 | タンタル 元素記号「Ta」 | タングステン 元素記号「W」 | レニウム 元素記号「Re」 |
プラチナ 元素記号「Pt」 | タリウム 元素記号「Tl」 | ビスマス 元素記号「Bi」 |
なお、レアメタルの一部の元素(希土類)は「レアアース」と呼ばれており、17の元素がこれに該当します。
レアアースの種類一覧 | |||
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スカンジウム 元素記号「Sc」 | イットリウム 元素記号「Y」 | ランタン 元素記号「La」 | セリウム 元素記号「Ce」 |
プラセオジム 元素記号「Pr」 | ネオジム 元素記号「Nd」 | プロメチウム 元素記号「Pm」 | サマリウム 元素記号「Sm」 |
ユウロピウム 元素記号「Eu」 | ガドリニウム 元素記号「Gd」 | テルビウム 元素記号「Tb」 | ジスプロシウム 元素記号「Dy」 |
ホルミウム 元素記号「Ho」 | エルビウム 元素記号「Er」 | ツリウム 元素記号「Tm」 | イッテルビウム 元素記号「Yb」 |
ルテチウム 元素記号「Lu」 |
レアメタルの主な用途
レアメタルは、それ単体で使用されるのではなくほかの金属の強度を増したり家電・工業製品の材料として用いられたりと、その機能性から用途は多岐にわたっており、現代の社会では非常に大切な元素であると言えるでしょう。
- 液晶テレビ)
- 携帯電話やパソコン
- エコカーやハイブリッドカーの自動車部品
- 太陽光発電システム
これらはレアメタルの使用例のほんの一部ですが、省エネを意識した製品には必要不可欠な金属となっています。今後も使用されていくことが予想されるレアメタルをどのように再利用していくのか、その方法が模索されています。
携帯電話がメダルに?「都市鉱山からつくる!みんなのメダルプロジェクト」
レアメタルが使用されている不要になった小型家電や携帯電話の山を「レアメタルを採掘できる鉱山」に見立てて、「都市鉱山」と呼ぶことがあります。
公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会は、この都市鉱山から抽出されたレアメタルを再利用してオリンピックのメダルを作成するプロジェクトを開始しました。
- 日本全国の国民がリサイクルに関する意識を持ち参加する
- リサイクルに対するテクノロジー技術の向上
- 資源の持続可能な有効活用を行う社会の実現
このようなコンセプトを元にオリンピック・パラリンピックのメダルを100%再利用のレアメタルで作成するという試みは、2020年の東京オリンピックが初となり、未来へつながる大切な遺産(レガシー)として受け継がれていくことが期待されています。
プロジェクトの取り組み
このプロジェクトに賛同した各自治体や企業は、小型家電を回収するためのさまざまな取り組みを行っています。
ボックス回収
主に、携帯電話やデジタルカメラ・デジタルオーディオプレイヤーなどの小型家電を対象として、公共施設や商業施設・自治体のイベントなどに合わせて回収ボックスを設置する方法です。
回収された機器に含まれているデータの返却は行われないため、個人情報や重要なデータは事前に削除するか別の機器に移しておく必要があります。
拠点回収
自治体や認定事業者が指定した場所を拠点として、定期的に小型家電の回収を行っています。パソコンやDVDプレイヤーなど、回収ボックスに入らないものも対象となります。
こちらも、あらかじめデータの移行・削除は必要です。
ピックアップ回収
各自治体が、ごみ排出場所に排出された粗大ごみの中から使用済み小型家電をピックアップして回収を行います。
宅配回収
インターネットから申し込み、段ボールに詰めるだけで、自身が指定した日時に宅配業者が回収に来てくれます。
パソコンの回収は無料で、ほかの小型家電も同時に回収できますが、段ボール1箱で収まらなかった場合や回収するものの中にパソコンが含まれていない場合は、段ボール1箱につき1,500円(税別)の手数料が必要になります。
回収する機会を多くし、さらに民官一体となって取り組まれるプロジェクトにより、小型家電の回収は大きな成果を上げています。オリンピックのメダルという分かりやすい目標があることも、レアメタルの再利用に関する国民の意識の向上をうながす大きな要因と言えるでしょう。
メダル作成という目標を達成することをきっかけに、オリンピック終了後もレアメタルのリサイクルを定着・継続させていくことに期待が寄せられています。
実際に携帯電話からどのような金属が採取できるのか
携帯電話は実際にどのような金属が使用され、どんな種類の金属が採取されているのでしょう。
使用されているレアメタルは、主に以下のとおりです。
- 金(ICやイヤホンジャック)
- インジウム(液晶画面)
- タングステン(振動モーター)
- アンチモン(プラスチック部分)
- チタン(キャパシタ)
このほかにもクロムやニッケルといったレアメタルに加え、銅やアルミニウムなどのベースメタルが利用されています。
小さな携帯電話に使用されている量はごくわずかであっても、それが集まると大量のレアメタルが採取できることになり、このことからもリサイクルの重要性を知ることができます。
レアメタルリサイクルの現状
期待が寄せられているレアメタルですが、その現状には多くの問題点も含まれています。
レアメタルリサイクルの重要性
レアメタルが今後も多くの家電に利用される可能性がある以上、限りある資源を有効活用していく仕組みを確立させることは最重要課題です。しかし、その重要性は国民に理解されない点も多く、現状ではいまだに不十分な部分も多く見られます。
レアメタルリサイクルが重要視される理由としては、以下の点が挙げられます。
- レアメタルは採掘される場所が限られており、輸出国の政策に左右される
- 価格の上昇が起こっている
レアメタルのほとんどを輸入に頼っている日本では、今後も利用が見込まれるレアメタルをいかに安定供給していくかが今後のカギとなります。しかし、輸出国の状態や価格によってはそれが不可能となるため、レアメタルリサイクルを軌道に乗せて社会に循環させていく仕組みを生み出すことが重要となっているのです。
省エネ製品にも多く利用されているレアメタル。そのリサイクルを確立していくことも大切な省エネ運動の一つと言えるでしょう。
レアメタルリサイクルの現状と取り組み
レアメタルリサイクルを推進していく取り組みとして、日本では2013年4月から「小型家電リサイクル法」が施行されました。これにより各地方自治体や企業による積極的な廃小型家電の回収が行われ、着実に成果を上げています。
東京都は2017年2月、メダルプロジェクトに先駆けて不要となった小型家電の回収を実施、プロジェクト開始後の4月以降も多くの人にレアメタルリサイクルを呼びかけ、わずかな期間で3万台以上の小型家電を回収しました。
埼玉県新座市は2017年9月より公立の小・中学校に簡易の回収ボックスを設置し、児童・生徒にレアメタルリサイクルを呼びかけています。
メダルプロジェクトを通して、オリンピックに参加しているという意識と環境問題を考える良いきっかけが生まれることに期待が寄せられており、子どもを通して親の世代にまでその活動の輪が広がりを見せています。
レアメタルのリサイクルは、未来への挑戦です。希少なものを丁寧にリサイクルする技術と心、それを次の世代へと伝えるための取り組みが始まっています。