社会ネグレクト(育児放棄)が与える子供への影響とは?

ネグレクト(育児放棄)が与える子供への影響とは?

子供への虐待の事件を目にしたり聞いたりすると本当に胸が痛みます。子供への虐待はどのような種類のものであっても痛ましいですが、なかでも「ネグレクト(育児放棄)」には両親の経済的貧困問題や健康・精神状態といった家庭内の複雑な関係も含まれているため、とても深刻な社会問題ともいえます。

ネグレクトとは

ネグレクトとは、幼児・高齢者などの社会的弱者に対し、その保護・養育義務を果たさず放任する行為のことです。

ネグレクトには、親が健康で経済的にも問題がないのに意識的に子供に関心を向けず世話を放棄する「積極的ネグレクト」と、貧困や病気などが原因となりやむを得ない状況でなってしまう「消極的ネグレクト」とがあります。一般的に知られているネグレクトは、親が意識的に行う積極的ネグレクトのことを言います。

ネグレクトの具体的な判断基準

ネグレクトとなる具体的な判断基準には主に下記のものが挙げられます。

  • ろくに食事を与えない
  • 入浴や着替えもさせずに不潔な状態のままにしておく(乳児の場合、長時間オムツを変えない)
  • 保育園や幼稚園、学校等に行かせずに家に閉じ込めておく
  • 病気が悪化したり、重病になっても病院に連れていかない
  • 長時間のあいだ子供だけにしておく
  • 乳幼児が泣いても、泣かせっぱなしで放置しておく
  • 子供と意識的に意思の疎通を行わない(会話やスキンシップをしないなど)
  • 買い物やパチンコ屋へ行ったときに、自動車の中に長時間放置する
  • 子供の健康状態を損なうほど、極端に家の中を不潔なままにしておく

 

ネグレクトになる原因

ネグレクトになる原因とは?

ネグレクトになる原因は各家庭や個人により異なりますが、親側と子供側に分けていくつかの原因となり得る状況を挙げます。

原因が親にある場合

親自身が子供の時にネグレクトを受けていた

ネグレクトの家庭では、子どもが成長の過程で受けるべき愛情や感情表現の仕方を教えられないまま育つため、自分の子供に対してもどのように接したら良いのか分からないことがあります。また、その「分からない」という問題を親自身が解決しないまま放置してしまうのです。

産後のホルモンバランスの変化と育児疲れ

女性は産後にホルモンバランスを崩しがちです。赤ちゃんがあまり母乳を飲んでくれず母乳がたまりすぎて乳腺炎を起こしたり、乳房がパンパンに張ってとても痛くなったり発熱したりします。妊娠中にはなかった生理も原因のひとつになります。

このような急激な身体の変化に加え、掃除、洗濯、食事等の家事もこなさなければなりません。また、赤ちゃんの生活リズムができあがるまでは昼夜問わずに泣く時期もあるので、まとまった睡眠時間がとれずヘトヘトに疲れ果ててしまい、オムツの交換や授乳、お風呂や着替えを怠けてしまったことがキッカケとなってネグレクトに繋がる場合もあります。

家庭内の人間関係や環境

配偶者や同居する家族との関係が良好とはいえない家庭では、家事や育児への協力を言い出せずに一人ですべてを抱えてしまい、子供の世話が行き届かず、ネグレクトを引き起こす場合があります。

原因が子供にある場合

子供が何らかの障害を持っている

「発達障害」や「知的障害」などコミュニケーションをとることに障害がある子供の場合、通常では予想もしない行動(急に大声をあげる、道路で急に走り出す、一つの物や事柄に強くこだわる等)を突発的にとる事があるため、周囲の人に気を使い過ぎて疲れ切ってしまい、受け入れることを難しく感じてしまうことでネグレクトに繋がる場合があります。

消極的ネグレクト(経済的困窮によるもの)

離婚の増加による母子家庭や父子家庭、いわゆる「ひとり親家庭」も増えています。

当然のことながら「ひとり親家庭」の場合、育児と家事に多くの時間を費やさなければならないため、正社員の仕事に就くことが非常に厳しく、時給や日給で働くパートやアルバイト(契約社員や非正規社員)といった社会保険があまり受けられない不安定な仕事に就く人が多くいます。

子供の急病等による欠勤が重なるとリストラや解雇のリスクも高まります。そして生活費の確保も難しくなり、子供に食べ物や衣服、住むところを与えてやることができずに消極的ネグレクトに陥ってしまいます。

 

ネグレクトがおよぼす子供への影響

ネグレクトは子供の成長や将来に大きな影響を与えます。いつも一人で放っておかれたことが原因で他の人の気持ちが理解できなかったり、人間関係を築くことが難しいためクラスの中で孤立してしまうかもしれません。

大人になってからも、同僚や上司と満足にコミュニケーションがとれないために定職に就くことが難しくなってしまいます。

また、だっこ等のスキンシップによって分泌されるオキシトシンというホルモンが十分に分泌されないので、周りの人達の気持ちを理解しようとしなくなってしまいます。さらには、「何をしても関心を持ってもらえない」と自分の心を完全に閉ざしてしまい、後天的な知的障害になってしまう恐れもあるのです。

オキシトシン
誰かを信頼したり大切にする感情を育むのに効果があるとされている

 

ネグレクトによる事件

少子高齢化にも関わらず、児童虐待に関する事件は年々増加する一方です。その事件の内容は言葉にできないほど残虐なものです。

以下に挙げた事件は、ネグレクトによる事件のなかでも特に酷かったものになります。

  • 1998年7月 巣鴨子供置き去り事件
  • 2003年11月 名古屋市4歳児虐待死事件
  • 2007年12月 苫小牧幼児死体遺棄事件
  • 2010年7月 大阪2児餓死事件
  • 2014年5月 神奈川県厚木市5歳児餓死事件

【ネグレクトの相談件数の推移】

年度2005年2010年2015年
件数34,47256,384103,260
前年比103.2%-(集計なし)116.1%

※2010年の件数は、東日本大震災の影響により福島県を除いて集計した数値
※2015年8月時点での集計

相談件数だけでも年を追うごとに増える一方となっています。

 

新たに直面する問題「セルフネグレクト」とは

新たに直面する問題「セルフネグレクトとは」

健康的な生活を送るのを拒否する「セルフネグレクト」

成人になっても自分自身の身の回りのことができず、電気やガスや水道を止められ、ゴミだらけの部屋にずっとこもり続けるというニュースをよく目にするようになりました。

「セルフネグレクト」とは、そういった「自分自身への世話」を怠り、生計維持をするために働かなければならないはずなのに「まともに働かない」「食事も取らない」「病気なのに病院へ行かない」など健康的な生活を送るのを拒否することです。

セルフネグレクトの原因にも様々なものがありますが、少子高齢化、格差社会の現代において最も多いとされている原因は、「地域社会からの孤立」です。

地域社会からの孤立

子供たちが大人になり独立して実家を出ていき、年老いた夫婦だけで生活していたが、配偶者に先立たれてしまうとします。その喪失感や悲しみから立ち上がれず家事をする気力を失ってしまい、ただぼんやりと毎日をすごしているうちに、セルフネグレクトになってしまうことがあります。

高齢のため、掃除や洗濯、週に何回かのゴミ出し、食事作りや入浴、着替えや買い物などの一般的な日常生活の動作が困難になってしまっているケースもあります。

このような社会的弱者のセルフネグレクトを改善していくには、家族はもちろんのこと、身近にいる地域の人たちが協力してできる限り社会参加の機会を増やしていく必要があります。

家族であるなら、電話でも良いのでコミュニケーションを欠かさずとることで、安否の確認だけではなく適度な刺激にもなります。

地域のバックアップが重要

地域の人であるなら、簡単な買い物を手伝ってあげることで話す機会を作り、「今、困っているのか?」「何が必要なのか?」ということを知ることによってセルフネグレクトの予防や改善ができるでしょう。

その他には、行政や地方自治体が設けている専門の相談窓口にもセルフネグレクトに関するたくさんの情報があるので、実際に足を運んで話してみるのも良いことです。

 

ネグレクトは子供たちだけが陥る問題ではありません。成人であっても何かのきっかけがあればすぐに陥ってしまう可能性があります。そうならないためには、一人で抱え込まずに誰かに相談してみましょう。必ず解決の糸口があるはずです。