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砥部焼の特徴
砥部焼(とべやき)は、愛媛県砥部町を中心に作られている磁器のことです。江戸時代中期より本格的にその製造が始まり、現在でも100程度の窯元が砥部町で砥部焼を作り続けています。
厚みと重量感のある磁器がベース
光沢があり、厚みと重量感のある磁器に藍色で描かれた模様があるものがオーソドックスな砥部焼の特徴です。絵付けは自然をモチーフにしたものが多く、その多くが手作りなこと、釉薬も改良を重ねられていることなどから、親しみを持って楽しまれています。
耐久性に優れる
後述のコラムにあるとおり、磁器の焼成温度は陶器に比べて高く、そのため耐久性に優れています。熱に強く、電子レンジの使用ができるだけでなく皿自体の熱さも感じにくいという特徴があります。磁肌はやや灰色がかっていることもありますが、白く品格が漂います。それでいてリーズナブルなため、日常使いには大変嬉しい品です。
なお、白みは有田焼の方が強いとされています。詳しくは以下の記事もご覧ください。
有田焼の特徴|良さと魅力を創業400年の歴史に学ぶ
砥部焼の歴史
江戸時代までは陶器のみの製造
江戸時代まで、砥部で製造されていた焼き物は陶器のみでした。山裾の傾斜が焼き物を作る窯の造成に適していた、燃料となる木材が手に入りやすかった、という理由から製造が行われてきました。
砥石(といし)の副産物から磁器の製造が可能に
そのころの砥部は「伊予砥」という良質な砥石(といし)が製造される地として名を馳せていました。
伊予砥の原材料である「伊予砥石」が多く採掘される一方、その砥石を切り出す際に出てくる砥屑の処理は大変な重労働だったとされています。しかし、屑石が磁器の生産につながることを大洲藩(現在の砥部町)は知り、1775年より砥石屑を活用した磁器の製造をスタートさせたのです。
試行錯誤の末、1776年に白磁器の製造に成功。当時の砥部焼は灰色がかったものでしたが、1818年に川登砥石という、より白い磁器を製造することに適した素材が砥部川で発見され、質が大きく向上します。
その後、砥部焼は製造された多くが海外へ輸出されるなど、焼き物としての地位を確固たるものとしていきました。
足踏みからの復活…無形文化財へ
大正から昭和にかけて、「せともの」とも言われる瀬戸焼などが製造の機械化を推し進めて生産量を伸ばすなか、手作りの砥部焼はその波に乗りきれません。
ですが、戦後の民芸運動で知られ、著書『雑器の美』で「雑器の美は無心の美」という言葉を残したことでも知られる柳宗悦に、手作りの磁器が高く評価されたこともあり、砥部焼は現在でも輝き続けています。なお、砥部焼は国の伝統工芸品、さらには2005年に愛媛県の無形文化財にも指定されています。
瀬戸焼の特徴と由来|せとものの意味と捨て方は?また、砥部焼と同様に、機械化が進むなかでろくろを使って手で成形する方法を守り抜いている窯元として有名なところでは、伊賀焼の土楽窯があります(八代目当主:福森雅武氏)。
伊賀焼の特徴|人間国宝っているの?
かわいい砥部焼がブーム
新しい砥部焼のスタイル
伝統的な砥部焼のスタイルは、先述した「白く光沢があり厚みと重量感のある磁器に藍色で描かれた模様が描かれたもの」です。しかし現代では、技術の進歩やさまざまな若手作家の登場によって、日常的に使用しやすい砥部焼やポップでカラフルな砥部焼など、さまざまなスタイルが登場しています。
そんな新しい砥部焼を2種類ご紹介します。
女性作家グループ「とべりて」が作る砥部焼
「とべりて」は、2013年に砥部焼のアピールとお互いの技術向上を目的に、女性陶芸家8名によって結成された団体です。その名称には「砥部焼」と「作り手」という2つの言葉がかかっています。
伝統的な砥部焼のスタイルとは異なり、かわいいイラストがカラフルに描かれたものや、もともとの砥部焼の特徴である藍色を中心とした青いバラの花が描かれた食器など、女性ならではの目線で作られたものが多数あります。
佐賀しげみ作 ワインカップ フェンネル
佐賀しげみの作品の多くは花や植物が描かれており、水彩画のような優しく温もりのあるタッチが特徴的です。
ワインカップには白磁に黄色のフェンネルが描かれており、淡いグリーンとブルーのラインが美しい酒器です。女性の手でもしっくり持ちやすいことや、テーブルに置いても高台部分に重みがあるため安定していることが特徴です。
大西三千枝作 楕円鉢 みきゃん
大西三千枝の作る砥部焼は、かわいく親しみやすいイラストに加え、幼い子どもでも使いやすいことが特徴的です。「楕円鉢 みきゃん」は、白磁器に愛媛県のイメージアップキャラクターみきゃんとオレンジ色の水玉が描かれた楕円鉢。とてもかわいらしく作り手である大西の温もりを感じられる商品です。
松田知美作 茶碗 小紋・青
松田知美の作品は、白磁器にかわいらしい赤や青の小紋を描いたものが特徴的です。この茶碗には、かわいらしくも落ち着きのある青色の小紋が描かれています。
砥部焼の新ブランド「白青」
砥部焼の新たなブランドとして注目されているのが「白青」です。砥部町出身の建築家ディレクターである岡部修三が中心となって生み出し、2015年にはグッドデザイン賞を受賞しています。
白青とは
「愛媛の砥部から日常的な食事の時間を楽しんでもらいたい」という思いからスタート。伝統的な砥部焼の色味である白と青の組み合わせを守りつつも、デザイン性が高く、軽くて使いやすい食器になるよう工夫が施されており、伝統とモダンが融合していることが「白青」の魅力です。
白青の特徴
白青の紋様には、シンプルなストライプ模様のシリーズと、愛媛県や砥部町にゆかりのある「ひばり」「まだい」「うめ」「どんぐり」を図案化した絵柄シリーズの主に2種類があります。
絵付けの際には、日本の陶磁器作りの伝統的手法である「墨はじき」が施されています。墨はじきとは、まず素地に墨で柄を描き、その上から藍色の顔料で着色することです。そうすることで墨に含まれた「にかわ成分」が藍色の顔料を弾き、本焼きで墨が落ち、墨で描いた柄が白く抜けるのです。
上記の伝統とモダンが融合した「白青」の商品を2点ご紹介します。
白青 大皿(絵柄・うめ)
砥部焼ならではの安定感が和洋どちらの料理もしっかり引き立ててくれる大皿です。砥部町にゆかりのある「うめ」の紋様が施された一品です。
白青 くらわんか碗 どんぶり(縞柄・太)
「くらわんか椀」とは、江戸時代に庶民が普段使いしていた磁器製の雑器のこと。毎日使える飽きのこない形状と安定感を実現した、まさに現代版のくらわんか椀です。シンプルな太めの縞模様は、落ち着いた雰囲気と高級感を漂わせています。
多くの窯元が集結する「砥部焼まつり」
砥部焼の生産地である砥部町では、砥部焼を用いたさまざまな町おこしが行われています。砥部町千足地内を通る国道33号線の中央分離帯には、大きさ65センチもの立方体のつぼ型砥部焼モニュメントが設置されています。
このほか、砥部焼の資料館や砥部焼づくり体験など、子どもから大人まで砥部焼を楽しむことができます。
そんな砥部焼を中心としたイベントで最も大きなものが、春と秋に開催されている「砥部焼まつり」です。毎年10万人を超える来場者が訪れるイベントで、日用食器から花器などの美術工芸品まで約10万点の砥部焼が販売されます。
イベントは、小さな子どもでも楽しめる砥部焼づくり体験や、砥部焼の食器に盛り付けられた料理など、砥部焼を思いきり楽しむことができる内容となっています。砥部焼の魅力にどっぶりと浸かりたい方は、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
江戸時代より製造がはじまった砥部焼。今もなおその製造が続いているのは、伝統が単に守られ続けただけではなく、時代に合わせた新たな試みが施され続けたことが背景にありました。作り手の思いと温もりがこもった砥部焼、ぜひ一度手に取ってみてください。