この記事の目次
クールジャパンとは
日本の「かっこいい」「おいしい」「面白い」、さらには「おもてなしの心」を世界に届ける活動が「クールジャパン」です。
この活動は、下記を主な柱としています。
- 情報発信:日本の魅力を海外に発信する
- 海外展開:在外公館などを中心として広報活動を行う
- インバウンド振興:訪日外国人旅行者が過ごしやすい環境を整備する
クールジャパンは明確に定義付けられたものではなく、「クール(かっこいい)」と思えるものならば何でも良いため、日本のゲーム・マンガ・アニメ、ファッション、伝統文化、日本食、ロボット、環境技術など、多くの分野で取り組んでいくことができます。
世界で評価される日本の文化
オタク文化
日本のゲームとマンガ・アニメは、いまや世界を代表する「文化」として評価されています。海外の書店には数多くの日本のマンガが並び、日本のアニメのコスプレをするために来日している外国人も増加傾向にあります。
ファッション文化
伝統工芸品の着物文化のみならず、日本独特のファッション文化は海外から大きく注目を集めています。特に、原宿・青山で見かける自由で奇抜なファッションスタイルは、外国人観光客の多くの人をとりこにしています。
日本のアイドルグループが着ているかわいらしい服をきっかけに、日本のファッションにハマってしまう人もいるほどです。
伝統文化
外国人観光客は日本の歴史と伝統文化の体験に高い興味を示しています。特に、日本古来の庭園を見たり温泉街を満喫したり老舗旅館に宿泊したりすることが人気。古き良き日本の文化に注目が集まっています。
食文化
和食がユネスコ無形文化遺産に登録されてから、外国人観光客の日本食への興味が非常に高まっています。寿司・天ぷら・焼肉などもともと人気のあった料理に加えて、ラーメン・焼き餃子など独自の発展を遂げた料理の人気も高まっています。
クールジャパンの成り立ち
2003年の「ビジット・ジャパン・キャンペーン」から始まった年間訪日外国人旅行者1000万人を達成するための活動が、クールジャパンの起源です。
2006年12月には「観光立国推進基本法」が成立。開始当初は国土交通省の所管でしたが、2008年に観光庁が新設されたことにより活動が本格化しました。ただ、当初は目標未達でありながら、目標値だけが毎年積み上げられていく苦しい状態でした。
そのなか、2013年にクールジャパンが始まったことで、目標である1,000万人を達成することができたのです。
それからも訪日外国人旅行者数は順調に伸び、2017年3月に見直された「観光立国推進基本計画」では、目標値が2020年に年間4,000万人、2030年には6,000万人と設定されています。
訪日外国人旅行者数の地域別の内訳
2016年の訪日外国人旅行者数の地域別の内訳を見ると、全体の旅行者数の約2,400万人に対してアジアが約2,040万人となっており、北米・欧州(約140万人)からの集客が十分ではないことが分かります。
年 | 訪日外国人旅行者数 | アジア | 北米・欧米 |
---|---|---|---|
2012 | 835.8 | 638.8 | 77.6 |
2013 | 1036.3 | 811.6 | 90.4 |
2014 | 1341.4 | 1081.9 | 104.8 |
2015 | 1937.7 | 1664.6 | 124.5 |
2016 | 2403.9 | 2042.8 | 142.2 |
参考:JNTO(日本政府観光局)(単位:万人、2016年は暫定値)
また、訪問地域が東京・大阪・京都・千葉に偏っているという問題もあります。
したがって今後の課題は、欧州からの旅行者を呼び込むこと、地方の観光資源を開発することになります。
クールジャパン戦略の現状と取り組み
「クール」なものなら何でも対象になるクールジャパン戦略ですが、戦略であるからには「何を」という部分は最も重要です。そこには当然、選定基準が必要になります。
しかし、内閣府・経済産業省・国土交通省・農林水産省などの複数の団体が関与しているため、「何を」の基準がはっきりとしていない状態です。
例として、後述するクールジャパン機構では、支援基準を「政策的意義」「収益性等の確保」「波及効果」としています。
そこで、現状として国は各団体が選定した「何を」を、3つの段階と5つの視点で支援しています。
3つの段階
- 情報発信(日本ブーム創出)
- 海外への商品・サービス展開(現地で稼ぐ)
- インバウンドの国内消費(日本で消費)
5つの視点
- 「デザイン視点」で横串を刺す
- 政策・事業を連携させる
- 人材ハブを構築する
- 外国人の視点を取り入れる
- 地方の魅力をプロデュースする
情報発信(日本ブーム創出)
知的財産戦略推進事務局(内閣府)では、商品・サービスの品質や性能、意匠や質感などの魅力を引き出し差別化したうえで、放送コンテンツ、在外公館、旅行会社などを通じて海外へ情報発信をしています。
この際、中長期的に根強いファンを獲得する商品・サービスと短期的にブームとなる商品・サービスとの違いにも気を配り、それぞれのクールジャパン資源の特性に合わせた効果的な情報発信を行います。
適切な情報発信には、それに関わる人材のプロデュース能力、マネジメント能力、マーケティング能力を高める必要があるため、人材の育成や確保にも力を入れています。
海外展開(現地で稼ぐ)
海外展開にあたっては在外公館を活用し、これを中心にした人的ネットワークによって海外のライフスタイルを研究し、ニーズを発掘しています。
また、在外公館を最大限に活用することで日本製品の海外輸送とアクセスを容易にすることが可能になります。さらに、NHKワールドTVを通した情報発信に加え、訪日外国人旅行者自らが発信する情報にも期待しています。
特に、訪日旅行者を増やしたい欧州向けのプロモーション、体験型訪日ツアーに重点を置いて企画しています。
インバウンド振興(日本で消費)
クールジャパンの海外展開により、日本に興味を持つ外国人が増えることが期待されています。ここで、日本の製品・サービスの紹介だけにとどまらず、製品・サービスが産み出された歴史的・文化的背景や製作工程自体の魅力を紹介しています。
そうすることで、より深く日本の魅力を知った外国人が本物志向を強めて来日し、日本の製品・サービスを購入するようになることが期待されています。
また、外国人が訪れやすい環境を作るために下記の社会基盤整備も進められています。
- 地方空港の機能強化
- 大型船受け入れの港湾整備
- CIQ(税関・出入国管理・検疫の3つを合わせた入国審査手続き)体制の充実
- クレジット取引のセキュリティー強化
- 医療の外国人受け入れ体制の整備
- 文化財の修理
- 景観を活かした街づくり(散歩道、建造物の保存、古民家改修)
- 公衆トイレの洋式化
さらに、ストーリー性を持った現地体験産地での体験を提供する「ふるさと名物発掘・連携促進支援事業」などの取り組みにより、訪日した外国人に自ら情報発信をしてもらえるよう計画しています。
クールジャパン機構(海外需要開拓支援機構)
クールジャパン戦略を推進するためには、大型の拠点づくりやM&Aのための資金を提供するファンドが必要になります。そこで、2013年11月に「株式会社 海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)」が官民ファンドとして発足しました。
クールジャパン機構とは
クールジャパン機構は、公的資金を供給することで民間の出資者のリスクを補完し、拠点となる空間提供や人材育成サービスを事業者に提供することで海外進出に伴うリスクを回避・縮小します。
これにより、事業者の海外進出時の資金不足・拠点不足・戦略不足を解消していくことが役割です。
活動の目的
クールジャパン機構は、日本の魅力ある商品・サービスである「クールジャパン」の事業化を支援し、海外需要獲得を目的としています。
支援基準は下記の3つです。
- 政策的意義:日本の魅力を海外へ事業展開する
- 収益性等の確保:適切な経営体制であり、民間事業者からも支援を受けていて、支援した資金を一定期間以内に回収できそうである
- 波及効果:国内産業に役立ち、「さまざまな企業などと連携」「情報発信により消費行動に相当程度影響を与える」「市場開拓の先駆けとなる」「中小企業・個人事業者が利用できる共同基盤となる」のうち一つ以上を満たすもの
活動の例
- 全世界に向けて日本のマンガ・アニメ等を発信する【Tokyo Otaku Mode・バンダイナムコHD・スカパーJSAT】
- 全世界に向けて日本のコンテンツをローカライズ(翻訳など)する基盤を整備する【イマジカ・ロボットHD】
- アジアなどで日本のコンテンツを支える海外人材を育成する【KADOKAWA Contents Academy】
- マレーシアに全館クールジャパンの「ショーケース」を構築する【三越伊勢丹HD】
- 中国向けに先駆的百貨店モデルを構築する【H2Oリテイリング】
- 欧米豪にラーメン、日本酒、焼酎などの流通網を構築する【力の源HD】
2020年のオリンピックイヤーに向けてクールジャパン戦略が加速していくと、訪日外国人旅行者もさらに増え、リピーターとなり、居住に至るケースも増えてくるでしょう。人口減少に悩む日本にとって明るい未来を作る戦略となることを期待しましょう。