ライフイベント日本の格差社会について考える「なぜ地域格差は生まれたのか?」

日本の格差社会について考える「なぜ地域格差は生まれたのか?」

超高層ビルが建ち並び、街を埋め尽くすほどの人々があふれる大都市。昼間でも閉じられたシャッターが並び、人気のない地方都市。同じ日本の中でも、大都市に人が集中する一方、地方では過疎化が進んでいるため、これほどまでに対照的な風景が見られるのです。このような「地域格差」はどうして生まれたのでしょうか。

日本の地域格差

高度経済成長の頃、日本の社会は「一億総中流」と言われ、格差が小さいとみられていました。しかし、バブル経済崩壊後の長い不況の時期に多くの人が格差を感じるようになりました。その一つに大都市と地方の地域格差があります。大都市への人口流入が続く一方で地方の過疎化が深刻化し「消滅可能性自治体」という言葉も生まれたほどです。

地域格差とは

地域格差とは、各地域間で見られる格差のことを指し、主に次のような面で生じていると考えられます。

  • 所得格差:大都市では所得が高く、地方では低くなる傾向にある
  • 教育格差:大都市では多様な教育の機会がある一方、地方では保育園が足りていないなど教育の設備やサービスが不足している
  • 人口格差:大都市への人口の流出により、大都市で過密化、地方で過疎化が進行している
  • 医療格差:大都市では多数の医療機関があり受診の機会も多いが、地方は労働力不足により医療機関が少ない
  • インフラ格差:交通、情報等のインフラが大都市では整備されている一方、地方には整備が行き届いていない

 

地域間の所得格差

地域間の所得格差

地域格差を、所得格差にスポットをあてて見ていきましょう。

県民所得・最低賃金の比較

2018年の都道府県別の一人当たり県民所得は、最も高いのが東京都で541.5万円、次いで愛知県の372.8万円、栃木県の347.9万円の順でした。東京都は2位の愛知県よりも150万円以上上回っています。

反対に最も低いのは沖縄県で239.1万円、次いで宮崎県の246.8万円、青森県の250.7万円の順でした。沖縄県は東京都の44.2%と半分以下になっています。

MEMO
全国の平均は331.7万円

都道府県別の最低賃金も県民所得と同様の傾向を示しています。2021年10月に発表された都道府県別最低賃金では、最も高いのが東京都で1,041円、次いで神奈川県の1,040円、大阪府の992円となっています。

反対に最も低いのは沖縄県と高知県の820円で、最も高い東京都との差は221円にもなります。この差は2007年頃には120円程度であったため、拡大傾向にあります。

最低賃金は、人口・求職者数・求人数・企業業績等の経済状況によって決められています。物価や家賃等がそのまま反映されているわけではないため「最低賃金=不安なく暮らしていける収入」とはなっていません。

実際、大阪府は最低賃金が全国3番目の高さであるにも関わらず、ワーキングプア率は2012年にワースト2位であり、最低賃金は最低生活費の7割程度であるとされています。

海外との比較

日本の格差は世界の国々と比較してどの程度でしょうか。所得分配の不平等さをはかる指標であるジニ係数を用いて比較してみます。ジニ係数は1に近いほど貧富の差が大きく、0.4を超えると社会不安が高まると言われています。

2014年、日本の当初所得(再配分を考慮しない)ジニ係数は0.5704と過去最高を記録しました。しかし、高額所得者に対する累進課税や社会保障給付を加味した再配分後のジニ係数は0.3759となっており、一般的にはこの数字が比較に用いられています。

これを世界の主な国々と比較してみると、次のようになります(いずれも2014年)。

  • 南アフリカ 0.62
  • 中国 0.56
  • トルコ 0.40
  • アメリカ 0.39
  • イギリス 0.36
  • オーストラリア 0.34
  • 韓国 0.30
  • フィンランド 0.27
  • アイスランド 0.25

再配分後で比較すると、日本はアメリカとイギリスの間に位置する結果となりました。隣国である韓国は格差が著しいといわれていますが、ジニ係数で比較すると日本よりも格差が小さいことがわかります。

また、2012年時点の都道府県別のジニ係数を計算した結果では、最も高いのが徳島県(0.444)、最も低いのが埼玉県(0.382)でした。なお、東京都は0.420と比較的高い値でした。高所得者が多い一方で、貧しい人も多くいることを示しています。

所得格差が生じた原因と対策

所得の地域格差が生じる要因は、人口の多寡やインフラの整備状況、教育水準など多くあります。所得に直接結びついているのは産業構造労働生産性です。

産業構造

地域の生産性は、より生産性の高い産業(例えば製造業)に特化している割合が高いほど、また人的資本が高い(教育水準が高い)ほど、比例して高くなると言われています。

実際に、製造業やサービス業等で働く人の割合が高いほどその地域の生産性は高くなり、農林漁業や建設業等で働く人の割合が高いほどその地域の生産性は低くなる傾向が見られます。

労働生産性

技術の進歩が行き渡るのにかかる時間が、地域によって違いがあるというのも大きな要因です。新技術が登場すると、まず大都市で整備が進み地方は後回しとなってしまいます。

例えば、高速インターネット通信を可能とするブロードバンドネットワークも地方のすみずみにまで行き渡るには時間がかかりました。いち早く整備された大都市の地域では、新しい技術に対応した産業創出にも有利です。

このような地域間の違いにより、集積する産業構造が異なり所得格差が拡大していきました。格差が拡大すると、より良い仕事や収入を求めて地方から大都市への人口移動の流れが強まります。特に若年層(25〜34歳)は進学や就職を機に三大都市圏へ転入する傾向が続いており、転入者全体の6割程度を占めています。

若年層が大都市へ移転し続ければ地方産業の担い手が減り、地域経済の停滞につながりかねません。高校や大学卒業後に地域にとどまる、または大都市での大学を卒業後に地域に戻ってくることができるよう、魅力ある雇用の創出が必要でしょう。

また、所得の地域格差を縮小させるためには地産地消を成立させることも大事です。大手資本のコンビニエンスストアやスーパー等での消費は支払われたお金が地域外へ出てしまい、地域での経済循環に寄与しません。

  • STEP1
    地域内での消費が地域内の産業を活性化させる
  • STEP2
    地域で働く人の所得増大につながる
  • STEP3
    地域内での消費に結びつく

という循環につなげていく必要があるでしょう。

同時に、域外産業のような地域外から資金を稼ぐ流れも重要です。そのために有望なのが観光です。地域の資源を活かした独自の観光産業を創出することによって地域外から人を呼び込み、消費を促すことが可能となります。このような産業を興すことで雇用の創出や所得の増大に結びつけることも可能です。

正規雇用と非正規雇用の格差の現状と対策

2016年の雇用形態別(正規・非正規)の月平均賃金は、

  • 正規雇用が32万1700円(年齢41.4歳、勤続12.7年)
  • 非正規雇用が21万1800円(年齢46.5歳、勤続7.7年)

となっています。正規と非正規では約11万円の格差があることがわかります。

ただし格差は年々縮小傾向にあり、比較できる2005年以降では最小となりました。これは正規雇用の賃金が伸び悩む一方、人手不足等を背景に非正規雇用の賃金が上昇しているためと考えられます。

非正規雇用については、働く貧困層いわゆるワーキングプア増大の主な原因になっていることから正規雇用への転換が多くの企業で進められています。また、家庭の都合等で長時間働けない人も多いため、在宅勤務や柔軟な勤務時間など多様な働き方の導入が望まれています。

 

地域間の教育格差

 地域間の教育格差

経済の地域格差を生み出す要因の一つとして、教育の地域格差が挙げられます。

地方と都心の教育格差

教育の地域格差の問題は古くから指摘されていました。1961年に実施された「全国小学校学力調査」においても、「住宅市街地域」と「へき地」では平均点に大きな格差がみられました。当時から学力の地域間格差が指摘され、それをいかに小さくするかが課題となっていたのです。

2008年に民間の教育機関が全国の小学5年生を対象に実施した調査では、「大都市圏」と「市部」および「町村部」の3つに地域類型して集計したところ、平均正答率は多くの教科において

「大都市圏」>「市部」>「町村部」の順でした。

その差は1961年当時よりも小さくなったとはいえ、格差は確実にみられました。

この調査では両親の職種及び年収も合わせて調べられました。その結果、年収が高いほど、また父親の職種は「専門・管理」職であるほど、平均正答率が高くなりました。このことから、収入が多い家庭では教育に対する熱心さも強く、学校以外の教育の機会も用いられていることが考えられます。

教育格差がもたらす影響

教育格差は所得格差を生みます。高等教育を受けた若者は、より良い収入や仕事を求めて地方から大都市へと移住してしまいます。このことは地方の経済を低迷させ、「過疎化」の進行を加速させることにつながっています。

 

「ふるさと納税」で地域格差は解消されるのか?

ふるさと納税とは、住民票のある地方自治体に「所得税」や「住民税」を収める代わりに、自分が選んだ地方自治体に寄付することができる制度です。「納税」と言うので税金と思われがちですが、正確には「ふるさと寄付金」という寄付金です。

寄付した金額から2,000円を引いた額が税金から還付されます。

MEMO
寄付額が5,000円の場合3,000円

ふるさと納税は地方振興を目的として導入されました。「超高齢化社会」と言われ過疎化の進む地方自治体では、人口の減少やそれにともなう経済の悪化により税収が減っているのが現状です。そこで税収不足を補うために「ふるさと納税」という形で寄付を募り、財政の地域格差を小さくしようとしています。

2008年度にスタートして以降、豪華な返礼品がもらえることで注目を集め、2015年度には総額1,653億円と2008年度の20倍以上に膨らみました。

しかしその内訳を見ると、自治体間で最大70億円もの格差が生じたことが明らかとなっています。40億円以上もの黒字の自治体が生まれた一方で、28億円もの赤字となった自治体もありました。また、過疎自治体のなかでも22の市町村が赤字となり、地方振興という本来の目的と制度の整合性が問われています。

「ふるさと納税」は、納税者が自ら応援したい自治体を選んで寄付できるというこれまでになかった斬新な制度です。本当に困っている自治体の助けとなるよう、より本来の趣旨に即した制度に変わっていくことが望まれます。

 

本記事では地域格差について見てきました。大都市と地方にはそれぞれの役割があり、どちらか一方だけでは成り立ちません。観光などの産業を通じて大都市から地方への人と資金の流れを太くし、地域格差を可能な限り小さくしていく取り組みが今後ますます必要になるでしょう。