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柿の栄養は天からの贈り物
高い栄養価で「柿が赤くなると医者が青くなる」ほど
柿は「Diospyros Kaki」という学名で、「Diospyros」は「神から与えられた食べ物」という意訳をすることができます。非常に高い栄養価かつ豊かな香りと味わいから重宝され、「柿が赤くなると医者が青くなる」と言われるほどの食材です。生のまま食べても美味しいのですが、この優れた栄養を持つ柿を干すことで、さらに多くの効能が引き出されます。
干し柿は和菓子の甘さの基準にも
今回紹介する干し柿は、渋柿が普及していた鎌倉時代に、渋を抜く方法が発見されたこと広まったものです。保存食だけでなく嗜好品としても優れ、祭礼用に使われるお菓子にもなりました。その糖度は最大で70%にもなり、メロンなどのフルーツよりも甘みがあります。
それでいて甘みはくどくなく品があることから、和菓子作りの現場では「甘さは干し柿をもって最上とする」とされるほどオーソドックスなものとして知られています。
干し柿の効能
生の柿のままでも栄養価は高いのですが、干すことで旨味とともに栄養も凝縮され、さらに多くの効能が期待できるようになります。
免疫力の強化・高血圧予防
ニンジンやカボチャと同様にβカロテンが豊富な干し柿は、体内に摂取されることでビタミンAに変換されます。ビタミンAには
- 免疫力の強化
- 高血圧予防
に効果があります。また、干し柿にはカリウムが多く含まれているため、水分と同時に不要な塩分が体外に排出されることでも高血圧予防に効能を発揮します。
美容にも効能あり
さらには、皮膚や粘膜の健康を整えるなど、多くの面で美容にも効能があります。干し柿には、抗酸化ビタミンとして知られるビタミンAや、ポリフェノールの一種のタンニンが含まれており、いずれも抗酸化作用を持つため、シミ・しわの改善、アンチエイジングの効能が。甘味を食べながら美容にも効能があるなんて、まさに一石二鳥と言えるかもしれませんね。
腸内環境の改善
干し柿に含まれる食物繊維は、便秘に効果的で、腸のバランスを整える作用があります。また、コレステロールの排出にも効果的です。
二日酔いの解消・生活習慣病予防
干し柿の原料である渋柿には、渋みの成分としてポリフェノールの一種「タンニン」が多く含まれています。タンニンは水溶性のため生のまま食べると渋みを感じますが、干すことで不溶性に変化するために渋みを感じなくなるという特徴があります。この現象は「脱渋反応」と呼ばれ、タンニンの成分が固まって大きくなることで、舌にある細胞に感知されなくなることが理由です。
また、二日酔いの解消に効果があるほか抗酸化作用もあり、生活習慣病の予防効果も期待できます。
口内炎の改善
干し柿の表面に付いている柿霜は漢方薬としても取り入れられており、口内炎やのどの痛みにも効果があると言われています。
食べすぎに注意
干し柿には食物繊維が含まれているので、血糖値の上昇を抑え、さらには満腹感が得られやすく、その結果ダイエットに効能があるとも言われますが、生柿に比べて水分が抜けている分、カロリーや糖質量が高くなっています。
生柿は100gあたり60kcal程度であるのに対し、干し柿は100gあたり276kcalにもなります。縮んで小さくなっているからといって、食べすぎには注意が必要です。さらに、食物繊維が豊富なため、食べすぎると腹痛を引き起こすこともあります。1日あたり1個程度を目安にするとよいでしょう。
また、干し柿を一度に食べ過ぎると胃石ができる可能性もあります。これは、タンニンが胃酸で溶けにくくなることで他の食物残渣(ざんさ)と結び付いてしまうことで発生するもので、この胃石が消化管に留まると、消化液などの通りが悪化してしまいます。
効能をしっかりと受け取るために…!干し柿の作り方
干し柿は、「渋柿」と呼ばれる実が熟しても甘くならず渋みのある品種を使用し、乾燥させて作ります。11月ごろに原料となる生柿が収穫されて作業が開始されますが、
- 水分量が25%程度になるまで乾燥させたものは「ころ柿」
- 比較的水分量の多いものは「あんぽ柿」
と呼ばれています。ここからは、しっかりと旨味を凝縮させ、効能をしっかりと享受するための干し柿の作り方を見ていきましょう。
干し柿の作り方
まず、サイズを選別しながら柿の皮をむきます。この後、柿を連にして吊し「柿すだれ」を作って乾燥させるのですが、これは仕上がりを左右させる大切な工程です。
また、直射日光で乾燥させると表面だけが乾いたり黒く変色したりするため、日光に当たらないようにして時間をかけてじっくり行います。時間をかけることによりしっかりと水分が抜けるとともに、渋みの要因であるタンニンが不溶化して渋みが消え、糖分が凝縮された甘い干し柿になるのです。
1週間から10日ほど経って表面が乾燥してきたところで柿を揉んで弾力を確認します。また、この時に種を取り除きましょう。さらに数日置いて適度に乾燥したら、柿すだれから柿を外してへたを取ります。
その後、わらの上に置いて冷たい風にさらし、表面の糖分が結晶化して白い粉が浮き出てきたら完成です。
干し柿のカビ対策
カビは、湿気があって温度が高い場合に発生しやすくなります。そのため、干し柿作りは気温の下がる11月中旬以降が適しており、
- 風通しが良く雨に当たらないところに干す
- 柿同士がくっつかないように干す
ことがカビ対策のポイントです。
また、吊す前に熱湯や焼酎に漬け込むことで柿に付着したカビを殺菌できるので、その後の工程でカビが発生しづらくなります。
おいしい干し柿をいただこう!
干し柿 紀州自然菓 あんぽ柿
紀州自然菓「あんぽ柿」は紀州の柿のみを原材料にしている完全無添加の干し柿で、自然の果実の旨味がぎっしり詰まった、まろやかでとろけるような食感と上品な甘味が特徴です。
標高が高いため朝晩の寒暖差が大きく、谷から風が吹きつけるなど、干し柿作りに適した環境で太陽の光を適度に浴び、水分量を50%も残して仕上げられたソフトな干し柿です。とろりとした滑らかさは、ほかの干し柿にはない食感。
世界的な食の評価機関である国際味覚審査機構(iTQi)において、最高評価である3つ星を6年連続で受賞した逸品です。
くり屋南陽軒 栗きんとん入り干し柿
100年以上にもなる栗きんとん作りの歴史をもつ老舗「くり屋南陽軒」が作る「栗きんとん入り干し柿」は、さまざまなメディアでも取り上げられている岐阜県中津川地区の銘菓。「最高級の干し柿」と称される長野県飯田産の市田柿のなかでも、肉厚で最もやわらかい柿を使用しています。
種は丁寧に取り出され、そこには新鮮な地元の栗と砂糖だけで炊き上げた栗きんとんが手作業で詰め込まれた、手間のかけられた和菓子です。
内田フルーツ農園 甲州百目 枯露柿(干し柿)
山梨県甲州市にある内田フルーツ農園は、年間をとおしてさまざまな果物の生産から加工品の製造・販売までを手掛ける観光農園です。
「甲州百目」は、水分量の少ない枯露(ころ)柿のなかでも特に高級品とされるもの。ほかの柿よりも大きいうえ、味わいも深く、天日でじっくり乾燥させることで甘味と食感が凝縮されています。
市田柿ミルフィーユ
「市田柿ミルフィーユ」は、お取り寄せのグルメ番組のほか、さまざまなメディアでも取り上げられている変わり種の人気商品。江戸時代には将軍にも献上されていたと言われる長野県南部のブランド干し柿である「市田柿」の間にバターを重ね合わせて仕上げたスイーツです。
干し柿の自然な甘さとバターのコク・塩味が溶け合うことでとろけるような食感が生まれる新感覚スイーツで、お茶菓子としてだけでなくワインやブランデーなどの洋酒ともよく合います。
寒い季節になると家の軒先に吊して乾燥される干し柿は、古くから冬の風物詩でした。先人たちは、渋柿が乾燥によって甘さたっぷりのおいしい干し柿へと変化することを知り、その味わいを楽しんできたのです。
長く親しまれてきた日本の代表的なドライフルーツ「干し柿」を、ぜひ味わってみてください。