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障害者を雇用する際のルール
ある程度の規模を持つ事業主に対しては障害者を雇用する義務が発生し、雇用率が基準を満たしていない場合には納付金の支払い義務が生じます。
一方で、雇用基準を満たしている、超過している場合には調整金を受け取れる制度もあります。
障害者雇用率制度
企業の規模に合わせて、定められた障害者雇用率を満たす人数の障害者(身体障害者・知的障害者・精神障害者)の雇用を義務付ける制度です。
- 民間企業
- 教育委員会
- 官公庁・特殊法人
それぞれで障害者雇用率が決められています。
また、障害者を多数雇用している大企業のうち、一定の要件を満たしている会社(特定子会社)を設立した場合には、雇用率算定の特例が認められます。
民間企業の場合、2018年4月時点での障害者雇用率は2.2%と定められているため、従業員を45.5人以上雇っている企業では、一人以上の障害者を雇用する義務が発生します。
障害者雇用納付金制度
事業主が障害者を雇用することで発生する経済的負担を調整するための制度で、常用労働者の人数が100人を超える企業に対して納付金が与えられます。
- 雇用率を満たしていない事業主からは不足人数一人あたり月5万円を徴収
- 雇用率を満たしている事業主には超過人数一人あたり月2.7万円を支給
障害者差別禁止指針・虐待防止
障害者雇用促進法に基づいて、障害者に対しての不当な差別をなくすために「障害者差別禁止指針」が制定されています。
この指針は、従業員の
- 募集・採用
- 給料
- 配属・昇級・降格
- 研修・教育訓練
の各項目において、障害者を理由に不利な条件にしたり排除したりすることを差別と判断し禁止するものです。
また、障害者に対する虐待も深刻な問題です。
2012年に施行された障害者虐待防止法にも障害者虐待の記載があるため、この法律も遵守しなければなりません。
障害者を雇用することでのメリット
ワークシェアリングの促進
普段、従業員が行っている仕事の中からあまり専門技術の必要ない仕事を切り出し、障害を持つ人にやってもらうことで、各従業員の抱えている仕事の負担を減らせます。
さらにその分、手の空いた従業員がより付加価値の高い仕事を行えるようになり、そこから新たな仕事を創り出すこともできるため、作業の効率は良くなっていき、残業時間の短縮にもつながります。
人事管理の能力が高まる
精神障害者の中にも、うつ病や統合失調症などさまざまな症状があり、それぞれで業務上配慮しなければならないポイントは異なります。
- うつ病の人の場合は、仕事時間の管理
- 総合失調症の人の場合は、優先順位を付けることと業務の提定型化
が必要で、これは障害者でない人でも多くの従業員を管理するうえではとても大切なスキルとなります。その結果、おのずと責任者の管理能力は向上し、従業員育成能力の向上にもなるのです。
社内コミュニケーションの向上
一般の従業員とは異なる思考を持つ障害者が社内にいることで、
- いままでとは異なる方法で作業を行うため新しい発想が生まれやすくなる
- 作業に見落としがないか報告・連絡・相談を怠りにくくなる
といった現象が生まれます。それにより、従業員同士のコミュニケーションは活発になり、職場の活性にもなります。
助成金・報奨金を受け取れる
地域によっては、障害者を雇用することで助成金または報奨金を受け取ることができます。そのほかにも、条件を満たすことで受けられる支援も存在しています。
障害者雇用に関する相談・支援
障害者を雇用する場合に事業主が受けられる相談・支援は、「ハローワーク」と「高齢・障害・求職者雇用支援機構」によって行われ、下記のような優遇措置があります。
ハローワーク
障害者を既に雇用している、もしくは雇用する予定がある事業主に対して、雇用管理上で配慮すべきことについての助言と相談が行われています。
また、必要に応じて
- 専門機関の紹介
- さまざまな助成金に対しての詳しい案内
- 雇用予定の事業主と障害を持つ求職者を集めての就職面接会
も行われています。
高齢・障害・求職者雇用支援機構
こちらは、地域障害者職業センターと中央障害者雇用情報センターを介して支援活動が行われています。
地域障害者職業センターの支援活動
- 雇用管理に関する専門的な助言と援助を行う
- 障害者を職場に適応させるため、ジョブコーチによる助言と援助を行う
- 精神障害者の雇用促進・継続と職場復帰を目的とした、主治医と連携して行われる専門的な支援
中央障害者雇用情報センターの支援活動
- 新たに特例子会社を設立・運営させるための具体的な助言・相談
- 障害者雇用の方針に関しての助言・相談
- 就業規則と給与条件など労働条件に関しての助言・相談
障害者雇用によって受け取れる助成金
障害者を雇用することで事業主が得られる助成金は、さまざまな状況に対応できるよう数多くのものが用意されています。下記より、助成金制度の例を見ていきましょう。
雇い入れた場合
特定求職者雇用開発助成金
高年齢者や重度障害者などの就職が困難な人を、ハローワークの紹介などによって労働者として雇い入れようとする事業主に対して助成金を支援するというものです。
この助成金を受け取るためには、以下の要件を全て満たしている必要があります。
- ハローワーク、もしくは民間の職業紹介事業の紹介経由で雇用する
- 雇用保険の一般被保険者として契約し、かつ、継続的な雇用が確実である
また、受け取れる支給額は対象の労働者によって異なり、一人あたりの金額は以下のとおりです。
対象の労働者 | 支給額 | 助成期間 | 支給額 | |
---|---|---|---|---|
短期以外の労働者 | 高年齢者もしくは母子家庭の母親 | 60万円 | 1年 | 30万円×2期 |
重度障害者を除く障害者 | 120万円 | 2年 | 30万円×4期 | |
重度障害者 | 240万円 | 3年 | 40万円×6期 | |
短期労働者 | 高年齢者もしくは母子家庭の母親 | 40万円 | 1年 | 20万円×2期 |
重度障害者を含む障害者 | 80万円 | 2年 | 20万円×4期 |
※重度障害者は、重度の身体・知的障害者、もしくは45歳以上の身体・知的障害者および精神障害者を指します
※短期労働者は、一週間の労働時間が20時間以上30時間未満の人を指します
職場定着のための措置を行った場合
障害者雇用安定助成金
障害を持つ人にあわせて雇用形態・雇用管理状況の見直し・対策を行おうとする事業主に対して助成するというもので、障害者の雇用促進と職場への定着を図る目的があります。
受給対象となる内容は以下の7つです。
柔軟な時間管理と休暇取得
通院・治療による欠勤への有給休暇付与、勤務時間減少への労働時間調整を行う
短期労働者の勤務時間延長
一週間の労働時間が20時間未満の人は20時間以上に、30時間未満の人は30時間に延長を行う
正規・無期雇用への転換
有期契約労働者・無期雇用労働者を正規雇用へと転換を行う
職場支援員の配置
障害者が業務を遂行するうえで必要になる援助・支援を行える職場支援員を配置する
職場復帰への支援
中途障害によって休職となってしまった労働者に対して、職場復帰を手助けし、継続して雇用を行う
中高年障害者の雇用継続支援
中高年の障害者に対して、適応できる職場を新たに提供し、雇用を継続する
社内理解の促進
一般労働者に対して、障害者の援助・支援に関するさまざまな知識を習得させるための講習を受講させる
職業能力の開発を行った場合
障害者能力開発助成金
障害者の職業能力を開発・向上させるために、開発訓練を行う事業主に対して助成を行うというもので、障害者の雇用促進と雇用継続を図る目的があります。また、この助成金には以下の4つがあります。
第一種助成金
障害者のスキルアップを目的とした施設の設置・整備を行う事業主に対して助成する
第二種助成金
障害者のスキルアップを目的とした施設の運営を行う事業主に対して助成する
第三種助成金
雇用している障害者に対して、職業能力の開発訓練を実施しようとしている事業主を対象に助成する
第四種助成金
3人以上5人以下の障害者グループに対して、事業所内での教育・訓練を実施しようとする事業主を対象に助成する
税制
障害者の雇用を大人数行ったり障害者施設へ業務の発注を行ったりすると、障害者雇用に積極的な事業主であると認められ、税制上で以下の優遇措置が受けられるようになります。
・機械等の割増償却措置(法人税・所得税)
・「障害者の働く場」に対する発注促進税制(法人税・所得税)
・助成金の非課税措置(法人税・所得税)
・事業所税の軽減措置
・不動産取得税の軽減措置
・固定資産税の軽減措置
ただし、これらを受けるためには、ハローワークにて手続きを行い、証明書を交付する必要があります。
日本において、障害者雇用に対する環境は日を追うごとに良くなりつつあります。障害にとらわれず、誰しもが好きな仕事を選べる世の中になるためには、あと一歩のところまで来ています。