この記事の目次
卯三郎こけしの歴史
卯三郎こけしとは
卯三郎こけしとは、昭和時代に群馬県の中央部にある「榛東村(しんとうむら)」の岡本卯三郎によって考案された製法で作られたこけしのことです。岡本は榛東村出身の1917年生まれで、1950年ごろに群馬県の渋川でこけしを作り始めます。その後、1979年に故郷榛東村に工房を新設して本格的に卯三郎こけしの製作を始めました。
技術革新にも取り組む
群馬県は日本一の創作こけしの産地です。東北のこけしは「伝統こけし」、対して群馬県のこけしは「近代こけし」とされ、自由なところが特徴です。おかっぱ頭の童女のこけしは群馬県の柔軟性の象徴とされています。卯三郎のこけし作りの特徴は、胴体に工夫(ふっくらとした丸み)を施し、筆の絵付けと彫刻や焼き絵を融合させて立体感を表現したデザインです。
卯三郎こけしは、ロクロの技術や特殊機械技法など制作技術の革新にも取り組んでいます。その他、今までと違う素材として欅や栗なども取り入れてその美しい木目も表現に加えました。
岡本卯三郎は新しいデザインや製造方法・原材料の革新を行ってきたのです。
卯三郎こけしの作り方
こけしの原木には、先に紹介した欅や栗のほかに従来の原木として水木(みずき)や桜があります。
原木の伐採は木が水分を吸い上げなくなる秋になります。産地は群馬県の北部山間部に位置する利根・吾妻で、ここは新潟県や長野県に隣接した森林の豊かな地域です。
卯三郎こけしの制作工程は主に12個に分かれており、以下のとおりとなっています。
- 手順1皮むき・乾燥水木・桜・栗・欅とそれぞれの木の材質に特徴があり、その材質に合った方法で皮むきと乾燥を行います。水木・桜は皮をむいた後に1年~2年ほど自然乾燥させます。栗は加工後に乾燥器で、欅は皮が厚いため倉庫などでそのまま乾燥させます。
- 手順2製材・プレス一定の長さに切断(フシを除く)して、一定の太さに丸く加工します。こうしてロクロの削り作業が少なくなるようにします。
- 手順3機械加工量産する商品は機械で削ります、このなかには機械を利用しても10以上の工程が含まれます。
- 手順4ロクロ長年培ってきた勘と技術によって削っていきます。
- 手順5磨きサンドペーパーで磨きます。「荒研磨」「下地研磨」「仕上げ研磨」の三工程があります(詳細は下部)。
- 手順6焼きゴテ絵の外郭線をニクロム線で焼きます。
- 手順7彫刻・絵点けすぐに絵付けするものと、さらに彫刻刀で掘った後にするものがあります。一般の商品は下絵無しでいきなり色付けを行います。
- 手順8塗装・組み立て下地塗装2回・仕上げ研磨・仕上げ塗装の後に、オカッパ・顔・首・胴の組み立てをして完成です。
- 荒研磨:細かなキズや汚れを削り落とし、素材面を整える作業
- 下地研磨:何度も研磨し、平滑な下地になるよう施す作業
- 仕上げ研磨:でっぱりや汚れなどがないかを隅々まで確認しながら研磨する作業
卯三郎こけしの特徴
職人技で素朴な美を味わえる
卯三郎こけしは、岡本卯三郎の当初のアイデアを受け継ぎながらも新たな技術を導入し、熟練した職人によって、磨きや彫りなど一つひとつ丹念に作り込まれます。
こうして作られる卯三郎こけしは、重なった焼き線や美しいグラデーション、優しく包み込むような目などで木に新たな生命を吹き込み、素朴な美を生み出します。
キャラクターとのコラボが大人気
1961年に第1回群馬こけしコンクールが開催されるようになり、デザイン・開発力・技術力を競って卯三郎こけしも毎回出品して多くの賞をもらいます。
その新しい取り組みの流れで、若い人にもこけしに興味を持ってもらおうと始まったのがキャラクターこけしです。そこで大きなきっかけになったのが、2010年の「ミッフィー生誕55周年展」です。
東京ビッグサイトのギフトショーにキャラクターこけしが出品された際に、ミッフィーの商権(販売を行う権利)を持つ会社が製作を依頼したのです。製作されたミッフィーこけしは数千個も売れ、メジャーキャラクターこけしの可能性が見出されました。
それからキャラクターこけしの量産体制が構築され、ヨーロッパを中心に人気を得て18ヵ国に直接輸出されるようになりました。
ドラえもんや鬼滅の刃も
大小さまざま、また古今東西の有名キャラクターが作られています。
スヌーピー、ミッフィー、ミッキーマウス、ドラえもん、赤ずきん、ウルトラマン、怪獣、干支、プーさん、サンタクロース、バカボンのパパ、ウェディング、五月人形、縁起物、スターウォーズなどと実に多くのキャラクターこけしが作られており、一年のあらゆる時期にお土産・記念品・贈答品として利用できるものになっています。
最近では、鬼滅の刃とのコラボ商品も人気になっています。
卯三郎こけし以外にも……群馬ふるさと伝統工芸品
群馬ふるさと伝統工芸品とは
群馬県には、創作こけし以外にも染織品や木工品、金工品などさまざまな伝統工芸品が存在しています。それを「群馬ふるさと伝統工芸品」として指定することで、伝統工芸品産業の再興を目指すとともに、地域の伝統や技術を後世にも伝えていけるようにしました。
群馬ふるさと伝統工芸品に指定されるためには、「群馬県ふるさと伝統工芸品指定要網」に基づき以下の要件を満たすことが必要になります。
群馬県ふるさと伝統工芸品指定要網の要件
- 日常生活で使われているものか
- 職人の手作業がメインで作られているものか
- 伝統的な技術・技法を用いて、伝統工芸にふさわしい商品であるか
- 伝統的に使用されてきた原材料に変化はないか
また、群馬県ふるさと伝統工芸品には以下のようなものがあります。
染色品
高崎手捺染(たかさきてなっせん)
- 江戸時代後期から、友禅染の産地として全国的に有名です(産地はほかに京都や東京がある)
- 繊細な小紋柄から華麗な友禅柄まで幅広い製品があります
- 現在も手作りされています
藍と草木を使った桐生絞り染め(きりゅうしぼりぞめ)
- 昭和初期から和装製品の染色加工を始めて、1枚の布を多色で染める技法が確立されました
- 天然素材にこだわり藍と草木を用いて、自然の色彩が特徴で深みのある柔らかさが安らぎをもたらします
- 主な製品はタペストリー、テーブルクロス、のれん、帽子、バッグなどです
木工品
沼田桑細工(ぬまたくわざいく)
- 奥利根産の桑を材料として木目の美しさ、上品さが親しまれており、使い込むほどに色が濃くなり味わいが増します
- 主な製品は茶筒、椀、湯看み、なつめなどです
入山メンパ(いりやまめんぱ)
- 江戸時代後期から、農林業以外の収入源として作られてきたとされています
- 弁当箱が有名ですが、小判形であることから縁起物としても扱われています
- 材料は赤松で繋ぎ目は桜皮です
金工品
桐生打刃物(きりゅううちはもの)
- 打刃物は軟鋼に鋼を貼り付け槌で打ち鍛えて作る刃物です
- 桐生打刃物は高度な技術によるもので使いやすく長持ちで、プロの料理人や農作業者などに愛用されています
万場山中打刃物(まんばさんちゅううちはもの)
- 江戸時代から、農林業用の鎌(かま)や鉈(なた)が生産されています
- その確かな技術で今日でも全国から注文が寄せられています
日本全国にはさまざまな伝統工芸品があります。「卯三郎こけし」のキャラクターこけしの成功例をヒントにして、ほかの伝統工芸技術も現代にさらに生かされれば良いですね。