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地熱発電の仕組み
地熱発電とは
火山がある地域の地下深くには、岩石がどろどろに溶けたマグマが存在しています。マグマは非常に高温なため、温度の低い地表面に向かって常に熱が運ばれています。
地表に降った雨水は地下に浸透し、その水がマグマの熱に触れると温められて軽くなり上昇します。上昇した水や蒸気は地下1km〜3kmほどの深さにある水を貯えやすい地層に溜まります。
これが地表に噴出したものが温泉なのですが、地熱発電は、こういった熱水や蒸気を利用して電気を得る発電方法を指します。
地熱発電の基本的な仕組み
地下1km〜3kmに貯えられている熱水は多くの場合200度〜350度で、地中で受ける高い圧力のために蒸気ではなく液体の水となっています。
ここに向けて地表からボーリング坑(井戸、地熱井:ちねつせい)を掘り、熱水を取り出します。熱水はボーリング坑を上昇する途中で圧力が下がるため沸騰し始め、熱水と蒸気が混じった状態となります。こうして得られた蒸気を発電タービンに送り、発電機を回して電気を生み出すのです。
一般的な火力発電では重油を燃やして水を沸騰させ、その蒸気を発電タービンへ送っています。しかし、地熱発電では地球が温めている熱水が用いられるため、燃料を必要としません。
発電に用いた蒸気は冷却設備によって冷却され、還元井(かんげんせい)と呼ばれる地中へと続く井戸を通じて地下へ戻されます。また、発電に利用した直後の蒸気は高温・高圧の場合が多く、それを再度蒸気として発電に用いる場合もあるなど、発電効率をさらに高める工夫がなされています。
2種類の発電方式が存在
地熱発電には大きく分けて「フラッシュ方式」と「バイナリ方式」の二つがあります。どちらも地下の熱水を利用するというのは同じですが、仕組みがやや異なります。
フラッシュ方式
地下の高温の熱水を蒸気としてそのまま発電タービンを回して発電する方式です。地下から得られる熱水が200度以上の高温の場合に適しており、古くからある地熱発電の方式になります。
バイナリ方式
地下の熱水を用いて沸点の低い媒体(代替フロンなど)を沸騰させ、その蒸気で発電タービンを回して発電する方式です。
地下の熱水が100度程度と比較的低い場合にも利用できること、また、すでにある温泉井戸を利用することで新たな掘削は不要になることなどから、近年注目されています。
日本における発電量
日本における地熱発電は、2019年度のデータで約54万kWの発電容量、発電量は2,472GWhとなっています。
最も古くから運転されている発電所は岩手県の松川地熱発電所で、1966年に運転が開始されました。比較的古くから行われてきた発電ではあるものの、後述するようにさまざまな制約があるため、開発はそれほど進んでいません。
利用できる地熱エネルギーが存在しているのは、北海道東部・西部・東北・北陸・近畿北部・九州など。すでに稼働しているものや計画・建設中の地熱発電所もこれらの地域に立地しています。
地熱発電のデメリット
日本国内における地熱資源量は合計約2,000万kWを超え、アメリカ・インドネシアと並んで世界トップクラスです。しかし、上述したように、すでに稼働している地熱発電所の能力は合計54万kW、さらに発電量で考えても、全体の約0.2%ほどしかまかなえていません。
地熱発電の普及があまり進まない理由として、以下のようなデメリットが存在します。
開発できる場所は国立公園内が多い
温泉が湧き出ている場所や火山がある場所は風光明媚な景勝地で、その場所のほとんどが国立公園に指定されています。しかし、国立公園内には良好な自然環境を守るための厳しい開発規制があり、以前は地熱発電の開発はほぼ不可能でした。
しかし、近年は地熱発電開発を促進するために規制が緩和され、環境に調和し、地域との合意が得られる場合には開発が認められるようになりました。
既存の温泉地との利害調整が必要
地中の熱水が得やすく地熱発電に適している場所は、すでに温泉としての利用がなされている場合がほとんどです。
温泉地にとって最も深刻な問題は温泉が枯れることです。温泉地の近くに地熱発電所ができると、熱水がそちらに取られて温泉が枯れるのではないかと心配する声が多くあります。そのため、地熱発電の構想が持ち上がったとしても反対の声が強く、実現に至らないケースが多いのです。
ただ、このデメリットを粘り強く乗り越えた事例も存在します。
熊本県小国町のわいた温泉に建設された「わいた地熱発電所」は、地元の地権者26人が設立した合同会社わいた会を中心として、中央電力ふるさと熱電株式会社が業務委託を受けて建設が行われました。
わいた温泉では以前にも地熱発電所の建設計画が持ち上がったものの、反対者が出て計画は頓挫していました。しかし今回の事業では、地域をどうしていくかという議論を何度も重ねて時間をかけて合意形成を行ったことで、建設が実現したのです。
「熱水を発電に用いるために温泉資源が枯渇するのでは」という不安に対しては、発電規模を小さいものとし、使用する熱水も温泉旅館一棟分程度とすることで、全員の合意を得ることができました。
その後、わいた地熱発電所は2015年7月に運転を開始し、発電によって生み出された売電収入を元に地域の特産物を活かした商品開発や観光事業の創出を行う「わいた温泉郷再生プログラム」が進行しています。
運転開始までにかかる時間が長い
地熱発電は、熱源の調査や探査、環境影響評価(環境アセスメント)、設備工事と、運転開始までに長い期間が必要になります。数万kmの大規模な開発案件では、事業の着手から運転開始までおよそ14年を要しています。
地熱発電のメリット
地熱発電には、ほかの再生可能エネルギーには見られないメリットがあります。
燃料を必要としない
地熱発電で利用される蒸気は地球が温めたものです。そのため、蒸気の発生には燃料を必要としません。そのため、運転時に二酸化炭素を排出しないのです。
天候に左右されない
地熱発電は化石燃料を使用しない、いわゆる再生可能エネルギーの一つに挙げられます。
再生可能エネルギーには太陽光、風力などがありますが、その多くは天候に左右されます。太陽光発電は晴天で太陽が出ていなければ発電できません。風力発電は風が吹いていないと発電できません。地熱は地中の熱を利用するため、天候に左右されず、安定して発電することが可能です。
発電設備の運転効率を表す設備利用率は、太陽光では12%程度、風力では20%程度となっているのに対して、地熱発電は平均70%と高いのも特徴です。
また、発電コストが低いことから、原子力発電や石炭火力発電と同様にベースロード電源(季節や天候を問わず一定量の電力を安定的に低コストで供給できる電源)に含まれます。
地域活性化のために実施する事例も
地方の過疎化・高齢化が進展するなかで、地熱発電を地域活性化の起爆剤にしようと取り込む動きも出ています。地熱エネルギーが利用しやすい地域は、多くが温泉地として成り立っています。
しかし、その温泉地が景気の低迷や高速交通網の発達によって衰退し、活力低下に悩んでいるケースが多いのが現状です。
そのようななか、電力自由化の流れで生まれた企業が地域主体の発電事業をサポートするという取り組みが始まっています。例えば中央電力ふるさと熱電株式会社は、再生可能エネルギーを通した地域活性化事業のための地熱発電事業に取り組んでいます。
この事業は地域住民が出資した地熱発電事業をサポートし、発電所の建設・運営・資金調達などの事業を業務委託により行います。このスキームにより、地域住民は資金やリスクの負担なしに地熱発電所を立ち上げることが可能となりました。
中央電力ふるさと熱電株式会社は、中央電力株式会社の関連会社。中央電力株式会社はマンションの一括受電を主な事業としており、都市部を中心に多くの顧客を有しています。
これらのネットワークを活かすことにより、地熱発電を行う地域の情報を発信したり特産品を直接販売したりといった、都市部と地域を地熱発電によって結び付ける新たな流れが作られています。
そして、中央電力ふるさと熱電株式会社による初めての事業が「わいた地熱発電所」の建設事業だったのです。
火山国の日本における地熱発電の可能性は非常に高いと言えます。しかし、発電所を建設して運転を開始するまでにはクリアしなければならない問題が多くあります。資源を有効に活用したうえで環境にも配慮した地熱発電所の今後の動向から目が離せません。