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キャリア教育とは
2011年の中央教育審議会による文部科学大臣への答申「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」において、生徒・学生から社会・職業への円滑な移行を手助けするための幼児期教育から高等教育までを通したキャリア教育が必要という内容が記されました。
キャリア教育自体は1999年の答申「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」で「受験準備の教育から脱却する方法」として提案されており、2011年の答申は、それを社会・職業へと拡大したものとなります。
キャリア・キャリア発達とは
「働くこと」を通して社会と関わっていき、それが「自分らしい生き方」につながる。この積み重ねが「キャリア」と呼ばれるものです。そして、キャリアの積み重ねのなかで課題を見つけ、それらを達成することによってキャリアを発達させていくことを「キャリア発達」と言います。
キャリア教育の定義
答申においてキャリア教育は、
一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育
と定義され、単なる労働力の確保ではなく、一人ひとりがより幸福な人生を送ることが目的とされています。
キャリア教育の必要性
「若者の社会的・経済的自立」「学校から社会・職業への移行」に関する課題を解決し、一人ひとりがより幸福な人生を送れるようにするためには、学業生活と職業生活を交互に、または同時に営むことでキャリア達成が実現できる生涯学習社会を構築することが理想です。
キャリア発達は生涯にわたって続くものですが、実業における収入格差や教育投資に対するリターンのアンバランスが存在する就業期に著しくキャリア発達を見込むのは難しいのが現状です。そのため、現状では学校教育の間に就業の基礎となる能力や態度を育成する「キャリア教育」が求められているのです。
推進の背景
厚生労働省が行った2017年3月の調査結果によると、就職後3年以内に早期離職をする者の割合は、中卒者で67.7%、高卒者で40.8%、短大等卒で41.3%、大学卒で32.2%となっており、この原因は「進路教育のあり方によるのではないか」という声が挙がっています。
ビジネスの世界での経験が相対的に少ない教職員が社会的・経済的自立につながる職業教育を行うのには困難がともなうという理由もありますが、それだけではなく、科学技術の進展によって職務に必要な知識・技能が高度化しており、それにつれて学校教育で修得すべき知識が高度化の一途をたどっていることも理由の一つとして考えられています。
このような状況を打開するため、高等教育への進学を第一とする傾向を改め、社会・職業への移行を円滑にする、具体的には、これまで初等中等教育と高等教育の接続の改善を目的に行われてきた「キャリア教育」を見直し、教育から就業への接続を考えた取り組みへと進化させる必要が生まれてきたのです。
キャリア教育の現状
新卒者の早期離職の裏には、キャリア教育の不備による働くことに対する関心・意欲・態度・目的意識・責任感・意志に関する未熟さが見られ、これは「学習と将来の仕事との間に大きな隔たりがあるから」との指摘があります。
この要因としては、現状のキャリア教育が学校ごとの断片的な取り組みに終わってしまっていること、各教科の取り組みの相互関係を把握し体系化していく経験が足りないこと、体験的な学習活動に必要な受け入れ先の開拓をおろそかにしている教育機関が多いことなどが挙げられます。
また、人間関係を理由とした早期離職が多いのは、社会人・職業人としての身近なロールモデル、いわゆる「あこがれの存在」がいないことによる影響が大きいとされています。働きながら学びにくい教育環境により、学生と社会人が交流する機会が奪われ、経験者や周辺の人から得られるはずの現実に即した情報が学生に届きにくいものになっているのも一因と言えるでしょう。
今後の課題
民法上の成年年齢を18歳へ引き下げる議論があるなど若者の早期自立が求められていますが、教育現場では学校から社会・職業への円滑な移行を目的とするキャリア教育が十分に行われていません。今後のキャリア教育では以下の取り組みが必要となるでしょう。
教育と職業のギャップを埋める
- 仕事をすることの意義や幅広い視点から職業の範囲を考えさせる指導を行う
- 社会的・職業的自立や社会・職業への円滑な移行に必要な力を明確化する
- 計画性・体系性を持った、発達段階に応じた指導計画を策定する
- 教員向け「社会体験研修」制度の推進
ほかの世代と交流する場を設ける
- 働きながら学ぶ環境を構築し、教育の現場で幅広い年齢層との交流を生み出す
- 地域社会やNPO(特定非営利活動法人)との連携・協力により交流の場を作り出す
- 連携に際しては教育機能の一部を外部に任せるのではなく学校が主体的に行う
職業体験の受け入れ先を確保する
- 職場体験活動の実施のみでキャリア教育を行ったとは見なさず、職業に対する理解を深め、必要な能力を明確にさせる指導を行う
- キャリア教育が地域に根付いた活動であり、持続的な発展に必要であることを受け入れ先に理解してもらう
- 意欲や態度といった社会人としての基礎力を身に付ける教育を行った後で職業体験を実施する
実際にキャリア教育を行っている団体
キャリア教育の問題点である、教育と職業のギャップ、他世代との交流不足、場の不足を解決するために活動している団体の取り組みを紹介します。
キッザニア
「キャリア教育実践プログラム」を用意して、幼稚園・保育園から中学校までを対象に学校のキャリア教育を支援しています。内容は以下のとおりで、学校教育と職業とのギャップを埋めるために必要なキャリア発達が期待されます。
事前学習
働くことのやりがいや意義についてイメージをまとめ、身近な大人へのインタビューでさまざまな仕事を知り、キッザニア体験の行動計画を作成します。
キッザニア体験
キッザニアの街で事前に立てた行動計画を実施します。
事後学習
グループのメンバーに自分の体験を発表・共有することで、働くことに対するイメージの変化を振り返ります。
特定非営利活動法人(NPO) キーパーソン21
「夢!自分!発見プログラム」と題して、自分の好きなことと世の中の仕事との結びつきに気づきを与え、大人とのコミュニケーションを通じて社会を知り、なりたい自分の将来像を具体的に考えることでキャリア発達を促す取り組みを行っています。
一歩を踏み出した子どもを支援する取り組みとして、キャリア教育に対する教員の不安を解消する「教員研修」、キャリア発達を目指す場を提供する「学習支援・居場所づくり」を行っています。
創発Cafe
「創発」とは非平衡熱力学の理論本から出た用語で、諸要素の相互作用から、単なる足し算ではない新しい構造や形態が生まれることを指します。
この創発が起こる条件は、
- 開放的(オープン)であること
- 非平衡(ダイナミック)であること
- 自己触媒性があること
の3つとされています。
そして、この考え方が一般社会の組織に適用できるとして生まれたのが「創発Cafe(高校生×大学生×大人カフェ)」です。この場は、自由に参加でき、きれいに整理された組織ではない場を提供することで計り知れない創造性が発揮されることを期待して始められました。
「キャリア教育」の実行にとまどいを見せている教育現場をよそ目に、社会人としての経験を積んだ大人が教育現場に参加することは、社会に新しい変化を生み出し、教育と職業とのギャップを埋め、希望ある未来を切り開くことにつながるでしょう。