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新たな社会の形「シェアリングエコノミー」
シェアリングエコノミーとは
所有していながら使っていない資産、例えば、
- 滅多に乗らない車
- 使う機会のないアウトドア用品
- 使用していない民家や駐車場
などの遊休資産は、ただ所持しているだけでは経済的な効果を生み出すことができません。
上記のような個人が所有している遊休資産をインターネット上に登録して情報を公開してもらい、貸したい人と借りたい人を仲介するサービスを提供することで利益を得るビジネスモデルのことを「シェアリングエコノミー」と呼びます。
「資産」という言葉を聞くと難しく思うかもしれませんが、シェアリングエコノミーをたどって見えてくるのは「昔ながらの助け合いの生活」です。
- 親戚が来るから駐車場をちょっと貸して欲しい
- 病院に行くならついでに車に乗せていってあげる
このような近所同士のやり取りをインターネット上で広範囲に拡大して有償で行い、経済効果を得るビジネスにしたものがシェアリングエコノミーなのです。
シェアリングエコノミーの5つの領域
シェアリングエコノミーは、保有されているものの使われていない資産を有効利用することで利益を生み出すことを目的としています。そして、そのニーズは多岐にわたります。
- 物のシェア:ブランド品のバッグやドレスのレンタルサービス・ネット上のフリーマーケット
- 空間のシェア:空き部屋を利用した民泊・農地の貸し出し・空き駐車場の利用・店舗の休日利用
- 移動手段のシェア:自家用車のシェア・ライドシェア(同乗)
- スキルのシェア:家事代行・介護・育児・特殊な知識や特技
- お金のシェア:クラウドファンディング(不特定多数の人にアイディアを公開し、賛同した人から金銭的協力を得ること)
シェアリングエコノミーのメリット
売り手(貸主)と買い手(借主)を仲介する業者をプラットフォーム事業者といいます。シェアリングエコノミーでは、このプラットフォーム事業者が提供するシステムに参加することで、いかに情報を広く公開して活用できるかが鍵となります。
これまでの資本主義社会では、資産を個人で保有し個人で消費するという特徴がありました。しかし、これではやがて経済効果が得られなくなる可能性があります。シェアリングエコノミーが目指しているのは、「使われていないものを有効活用して経済効果を生み出す社会」です。
プラットフォーム業者が用意したシステムを使って売り手(貸主)と買い手(借主)の距離を縮め、手軽に経済活動ができる土壌を作り利益を循環させていく。これがシェアリングエコノミーの大きな特徴であり、最大のメリットと言えます。
シェアリングエコノミーの問題点
しかし、このメリットは同時に問題も抱えています。
プラットフォーム業者はあくまで売り手と買い手を仲介するだけなので、直接的なやり取りは本人同士で行うことになります。
- 入金しても商品が届かなかった
- 依頼された仕事を納品したのに報酬が支払われなかった
このような場合でも基本的には本人同士で解決しなければなりません。
また、民泊を予約した場合、一般のホテルや旅館のように規定がないために衛生面や火事などのリスクが高いのも事実です。「物から人まで」幅広くビジネスを展開するシェアリングエコノミーには、その多様性ゆえにまだ規定が整っていないのが現状です。
広がりを見せるシェアリングエコノミー市場
シェアリングエコノミー普及の背景
シェアリングエコノミーで必要となるのは、幅広い情報の共有と手軽な利用を行うための環境です。
急速に発達したネット社会に呼応するように利便性を追求した端末機器が次々と開発されて爆発的な広がりを見せたことで、シェアリングエコノミーは大きく発展しました。
パソコンからでしかアクセスできなかった時代はあっと言う間に過ぎ去り、スマートフォン・タブレット端末などのテクノロジーが登場。思い立った時に簡単にネットにアクセスできる環境が整ったことで、サービスの提供・受給がより簡単に行えるようになったのです。
シェアリングエコノミー普及への対策
急速なネットの拡大は、シェアリングエコノミーの市場を急成長させました。しかし、これにともないシェアリングエコノミーのプラットフォーム事業者は早急な対策を迫られています。
世界規模でシステムを提供する事業者にとって、利用者が安心・安全にサービスを受けられるように対策を講じることは不可欠です。
このような状況から、日本では2016年に一般財団法人シェアリングエコノミー協会が保険会社と提携し、協会の会員となった事業者に向けてシェアリングエコノミー専用の賠償保険の販売を開始しました。
シェアリングサービスの提供において
- 対人対物事故が起きた場合に生じる法律上の賠償責任の補償
- 事業者がサイバー攻撃を受けた場合の補償
など、その内容は各事業者のニーズにより詳細に選べるようになっています。
このような保険が登場したことは、今までシェアリングエコノミーに興味はあっても利用することをためらっていた潜在利用者の後押しをし、新たなプラットフォーム事業者が生まれる追い風となる、と考えられています。
地域活性に向けた「シェアリングシティ」の推進
シェアリングシティ認定
急激な広がりを見せたシェアリングエコノミーは、自治体からの注目も集めるようになりました。人口減少に頭を悩ませる日本の各自治体にとって、
・助け合い
・経済効果
・地域活性
の可能性を秘めているシェアリングエコノミーは、まさに理想的な事業とも言えるのです。
遊休資産となっている公共施設の提供や、行き届かなかった公的サービスをシェアリングエコノミーと提携させることで充実させ、同時に仕事を確保して経済効果を生むなど、その取り組みは自治体によりさまざまです。
そして、地域の行政課題をシェアリングエコノミーで解決する自治体に対し、シェアリングエコノミー協会は「シェアリングシティ認定」を開始します。
シェアリングシティ認定都市の例
2017年11月に、シェアリングエコノミー協会は全国で15の都市をシェアリングシティとして認定しました。
岩手県釜石市
2019年に開催されるラグビーワールドカップの開催都市となっている岩手県釜石市。
世界規模の大会で多くの宿泊施設や移動手段を準備することは、人口減少に悩む釜石市にとって大きな課題でした。そこで釜石市はシェアリングエコノミーを取り入れ、空き家となっている民家や空室のある施設をシェアリングすることにしたのです。
それと同時に、カーシェアやライドシェアを導入して移動する手段を確保。ワールドカップの成功という大きな目標に向けて自治体と住民が一丸となり準備を進めています。
千葉県千葉市
千葉県千葉市もシェアリングシティとして認定された都市の一つです。
もともと千葉は、歴史的建造物や有名なホールといった大きなイベントを開催するのにふさわしい建物が多い地域です。また、首都圏に近く観光業も盛んなことから、毎年多くの観光客が訪れます。
このような背景から千葉市は積極的にシェアリングエコノミーを取り入れ、千葉の観光情報を発信し、誰でも簡単にイベントスペースを借りることができるシステムを導入して、新たな千葉の魅力を全世界にアピールしています。
特に自治体の公共施設がネット上で予約できるという画期的な方法は、赤字の公共施設を抱えている自治体にとって問題を解決する理想的なモデルとなる可能性を秘めています。
新しいビジネスでありながら、どこか懐かしく感じるシェアリングエコノミー。昔ながらの助け合いが形を変えて再び必要とされている現代社会は、未来へ進みつつも古き良き時代を取り戻そうとしているように感じます。