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持続可能な都市構造「コンパクトシティ」とは
コンパクトシティと聞くと小さくまとめられた町をイメージするかもしれませんが、都市の規模を小さくすることではなく、商業施設や行政サービスコーナーなど生活上必要となる機能を一定範囲に集めることで効率的な生活を目指すというものです。
買い物・通院・通勤通学・役所への届け出、もしこれらを一度に行おうとした時、どのくらいの時間や移動距離を予測して生活するでしょう。それぞれの目的地がバラバラになっていると、とても一日では足りません。
この状況を改善するため、生活上どうしても必要な施設や商業区域を一定の場所に配置し、公共交通機関や徒歩で短時間に回れる範囲に居住区域を設けて、時間や距離の無駄を省いた生活を目指した都市。それがコンパクトシティなのです。
コンパクトシティが注目を集める背景
都心部の人口集中によって地価が高騰し、人々は郊外へ住むようになりました。そして、郊外の開発が進められて道路などが整備され始めると商業施設も出店するようになり、そこに新たな街が形成されていきます。
この動きは日本各地で見られており、経済面で考えても当然の結果だと言えるでしょう。
都心部でも郊外でも、私たちの暮らし方・消費の仕方に大きな差異はないため、同じ間取りなら家賃の安い郊外を選んだ方が家計は楽になり、企業も同じ売り上げであれば土地代の安い方に出店した方が単純に利益は大きくなります。
そして、マンションの郊外建設や大型店舗の郊外出店は人々をさらに郊外へと誘導させ、中心部の空洞化を助長しています。
この「ドーナツ化現象」を解消し、都心部に活気を戻すための構想としてコンパクトシティが注目を集めるようになったのです。
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コンパクトシティと社会問題の関係性
コンパクトシティ自体は古くから提案されていたものでしたが、最近になってまた注目を集めている理由としては、日本が抱えているさまざまな社会問題が関係しているからだと考えられるでしょう。
人口減少
高度経済成長や人口増加の影響から郊外都市は拡大していったものの、人口が減少している社会では拡大すればするほど人口の分散が進みます。
空き家問題や耕作地放棄・限界集落などのように、人口減少によって地域から若者や労働力が減ることは非常に深刻な問題です。
この状態が続くと、2040年に日本の人口は約2,000万人減って1億700万人ほどになってしまうと推測されています。そのため、コンパクトシティによる都市構造の再構築は非常に有効な手段となる可能性があります。
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自動車をあまり運転しない高齢者にとって、徒歩や公共交通機関で利用できる範囲内に施設が集められていることは大変に重要です。特に、医療施設の需要が高まっているいま、限りある医療資源をいかに効率的に行き届かせるかが求められます。
さらに、居住地区が一定区画内に集まれば、送迎や訪問介護などの福祉サービスも効率よく提供することが可能になります。
経済的合理性
当然、地域に人が集まれば労働力の確保は簡単になって消費需要も見込めるため、産業が発展します。そして、産業が発展すればお金の回りは良くなり、経済は活性化していくでしょう。
しかし、郊外に人口が散在すると行政の管理範囲も広がるため、道路や水道の整備・維持のための管理費も増大します。人口が減少しているため、現行のコストを維持するにも限界があります。
環境問題
世界的な課題である環境問題。なかでも自動車の排気ガスによる二酸化炭素の排出は無視できません。自動車に乗る機会を減らし徒歩や公共交通機関の利用を増やすことで、間接的に環境保護につながることが期待されています。
コンパクトシティのメリット
生活の利便性を追求したコンパクトシティには、どのようなメリットがあるのでしょうか。
公共交通機関の発達による移動時間の削減
居住区域と利用施設がある場所が分散している地域では、車での移動が不可欠になります。コンパクトシティはそれぞれの区域を集中させて公共交通機関で結んでいるため、通勤や通学・買い物にかかる移動時間が大幅に削減されます。
また、移動時間が短くなると自由な時間が増えるため、趣味や運動などライフスタイルに選択の幅が広がるでしょう。
行政施設や医療機関・商業施設へのアクセスの良さ
公共施設や医療機関・普段の買い物へと気軽に出かけられる環境は、生活するうえで欠かすことのできない大きなメリットです。職場や学校が近くなることで時間と心に余裕が生まれることも期待できます。
福祉・医療の面で不安を抱えている高齢者にとって、何かあった時にすぐに頼れる環境があることは大きな安心へとつながります。
地域コミュニティの活性化
日本では、高齢者が昔ながらの集落で暮らし、若い世代が新しい住宅を郊外に建てて生活する、という年齢層による地域の分離が起こっていました。しかし、コンパクトシティではさまざまな年齢の人が同じ地域に集まって暮らすために年齢層によって分かれることもなく、地域活動の活発にもなります。
そして、高齢者を見守ったり子育て世代を手助けしたりといった昔ながらの協力体制も整い、行政も統括しやすくなるメリットが生まれます。
コンパクトシティのデメリット
魅力あふれるコンパクトシティですが、それを実現するためには解決しなければならない課題も多くあります。
居住地区が制限される
一つの地域に人が集まるということは、その分の土地を確保・整備して整えなければならないことを意味します。商業施設や行政施設・医療機関の配置と居住区域の確保、それにともなうインフラ整備や公共交通機関の構築には、莫大な費用が必要となります。
また、行政が定めた居住地区でしか住めなくなるため、住宅の選択肢は狭まるでしょう。
居住環境の悪化
人口密度が上がることでどうしても起こってくるのが居住環境の悪化です。もともと別の地域に住んでいた人が一つの場所に集まって暮らすことになるため、考え方や習慣が統一されていないことが多く、それを原因としたトラブルも少なくないのが現状です。
治安の悪化や騒音問題に頭を悩ませ、落ち着いた生活ができないことに不満を持つ住人も少なくありません。
都市と郊外の格差
コンパクトシティによって都心部に人を集めるということは、逆に居住地区の指定から外れた郊外地域の資産価値は下がる一方です。そのため、都心部に住宅を建てる資金がない人はコンパクトシティの恩恵を受けられないため、居住地区と非居住地区の格差はさらに大きくなるでしょう。
利便性を重視しているコンパクトシティですが、実現のためには、移動してくる住人への細かな配慮と目指すべきまちづくりの明確なイメージ、そして、充分な資金が不可欠となります。
自然発生的に拡大していった都市を人工的に造り変えていくコンパクトシティ。まちの構造だけではなく、そこに住む人々の意識も変えていく必要があるでしょう。