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過疎地域
過疎地域自立促進特別措置法(過疎法)の制定
1960年代の高度成長期に地方から都市圏への人口移動が起こり、過疎問題が発生しました。これに対応するため、過疎法が10年間の時限立法としてこれまでに4度制定されてきました。なお、現行法は2020年まで法期限が延長されています。
- 1970年:過疎地域対策緊急措置法
- 1980年:過疎地域振興特別措置法
- 1990年:過疎地域活性化特別措置法
- 2000年:過疎地域自立促進特別措置法
過疎地域とは
「過疎地域自立促進特別措置法(過疎法)」において「過疎地域」は、「人口の著しい減少に伴って地域社会における活力が低下し、生産機能及び生活環境の整備などが他の地域に比較して低位にある地域」とされています。
2017年現在、この法律により過疎地域として指定されている市町村は全国で817市町村です。下表(県別の過疎地域数)のとおり、東京、名古屋、大阪を中心とした3大都市圏にも過疎地域があることにも注目すべきでしょう。
北海道 149 | 栃木県 4 | 石川県 10 | 滋賀県 2 | 岡山県 20 | 佐賀県 9 |
青森県 29 | 群馬県 14 | 福井県 6 | 京都府 10 | 広島県 16 | 長野県 13 |
岩手県 24 | 埼玉県 4 | 山梨県 15 | 大阪府 1 | 山口県 12 | 熊本県 27 |
宮城県 10 | 千葉県 7 | 長野県 37 | 兵庫県 10 | 徳島県 13 | 大分県 16 |
秋田県 23 | 東京都 6 | 岐阜県 14 | 奈良県 18 | 香川県 8 | 宮崎県 17 |
山形県 21 | 神奈川県 1 | 静岡県 9 | 和歌山県 18 | 愛媛県 17 | 鹿児島県 41 |
福島県 31 | 新潟県 14 | 愛知県 5 | 鳥取県 12 | 高知県 28 | 沖縄県 18 |
茨城県 5 | 富山県 4 | 三重県 9 | 島根県 19 | 福岡県 21 | 計 817 |
過疎問題とは
過疎問題とは、人口減少・高齢化により地域経済が縮小することで、身近な生活交通の不足や医師不足などの社会資本の整備状況が低下して、集落の維持が危ぶまれている状態のことを指します。
しかし、これは地方集落だけの問題ではなく、地方からの人材流入によって維持されてきた都市部の活動もやがて衰退するということも意味しています。
まち・ひと・しごと創生法
この問題を解決すべく2014年に公布された「まち・ひと・しごと創生法」では、まち・ひと・しごとそれぞれに目標が定められています。
- まち:国民一人一人が夢や希望を持ち、潤いある豊かな生活を安心して営むことのできる地域社会の形成
- ひと:地域社会を担う個性豊かで多様な人材を確保
- しごと:地域における魅力ある多様な就業の機会の創出
そして、この取り組みを行うために「地域経済循環創造事業交付金」が用意されています。
過疎化からの脱却に向けた地域の取り組み
過疎地域から脱却しようと積極的な取り組みを行っている地域を紹介します。
長野県川上村
世帯数:2140世帯、人口:4814人
※2017年10月時点
長野県川上村では、マスコットキャラクターの「レタ助」を使って「日本一のレタス産地」、「野菜王国・レタス村」というキャッチフレーズで情報発信を行っています。
また、閑散期となる冬に沖縄県恩納村へ技術指導を行うことで、恩納村の産業創出と川上村の農業従事者の労働平準化を達成しています。
情報発信の成果として外国人実習生の受け入れにも成功しており、人口増加に寄与しています。
そのほかにも「地域情報通信基盤整備推進交付金事業」の活用や「川上村まち・ひと・しごと創生総合戦略」の実施などに取り組んでいます。
新潟県十日町市池谷集落
世帯数:11世帯、人口:24人
※2017年10月時点
新潟県十日町市池谷集落は「奇跡の集落」と呼ばれ、新潟中越地震による廃村の危機から復興を遂げた集落です。
池谷産の魚沼産コシヒカリを「山清水米」というネーミングでブランド化しており、2007年には「地域復興デザイン策定支援事業」の指定を受け、ボランティア、農業研修生、地域おこし協力隊員や移住者の受け入れも積極的に行っています。
協力隊員は、収入源としての集落外の活動と地元の農作業とのバランスを取りながら活動を行っています。東日本大震災以後は協力隊員を募集する自治体が増えたことで新たな協力隊の確保が困難になっていることから、退任後の隊員を移住・定住へと導くためのさまざまな支援策が行われています。
大分県豊後(ぶんご)高田市
世帯数:10624世帯、人口:22999人
※2017年10月時点
大分県豊後高田市は、地元商店街が元気だった1960年代のままの街並みを「昭和の町」と名付け、マスコットキャラクターの「ラッピー」と「カモン」を使ってPRを行っている市です。平安時代から千年変わらない水田区画として世界農業遺産になっている田染荘があるのもこの市です。
出産祝い金、こども食堂といった子育て支援や空き家バンクなどの移住者支援の存在により、移住者獲得に成功しています。
また、「おんせん県おおいた」としてのPRによって地域おこし協力隊員が十分に獲得できていることも、移住者の増加に貢献しています。
兵庫県篠山市(ささやまし)丸山集落
世帯数:9世帯、人口:24人
※2016年9月時点
兵庫県篠山市丸山集落は、篠山城の城下町として歴史ある古民家に宿泊することで、農業が主体だったころの「日本の暮らし」を体験できることをPRしている集落です。
ここでは、2008年に国土交通省のコミュニティ創生支援モデル事業や兵庫県の小規模集落元気作戦のモデル事業に採択され、空き家となっている古民家を活用する「農家民泊マネージメント戦略」が始まりました。
集落に新たな産業が生まれたことで移住者の獲得にも成功しています。
島根県海士町(あまちょう)
世帯数:1057世帯、人口:2353人
※2015年時点
島根県海士町は、「まち・ひと・しごと創生法」に基づいて海士町創生総合戦略「海士チャレンジプラン」を策定し、産業創出、都市交流、教育改革に取り組んでいます。
新規技術を積極的に取り入れている町としても有名です。冷凍技術CASの導入により地元の魚介類の鮮度を落とさずに遠方へ送ることを実現し、これを「島風便」としてブランド化しています。
また、2017年11月に公表された「再生エネルギーによるまちづくり」では、太陽光・風力のハイブリッド電力のほか、牛ふんなどによるバイオマス熱の供給、海藻からの水素エネルギーの生成などの確立を目指しています。
しかし、過疎から脱却した成功例のある周辺の地域では、その成功例によって住民が引き寄せられ、より過疎化が進んでいる場合も多くあります。
そうした視点で見ると、人口減少社会で過疎からの脱却を成功させることは、「人口集約」につながることでもあると考えられます。
過密地域
過密地域とは
急速な人口減少社会であるはずの日本において、人口が過密となっている地域が存在します。その代表例でもある東京都では外国人の人口が急増し、約49万人(2017年時点)となっています。
地域の過密が原因で起こる問題
東京の隣県、埼玉県にある蕨市の人口密度は、東京都の特別区よりは少ないものの市町村では1位の1平方キロメートルあたり14409人となっており、面積は市として最小の5.11平方キロメートルです。この蕨市にあるJR蕨駅から北側へ徒歩7分のところに、居住者数4799人(外国人約2500人)の芝園団地があります。
芝園団地には1980年代後半から留学生などが住み始め、ゴミ出しルールや騒音に関してのトラブルが発生するようになりました。
その後、トラブルから逃れるため日本人が団地を去っていき、日本人の抜けたところに外国人が入居する形で外国人比率が徐々に増加していきました。
人口過密問題への対策
芝園団地では、2015年4月から「芝園かけはしプロジェクト」が始まりました。
プロジェクトは、落書きをなくすことからスタートし、日本と中国の両方にある七夕を利用して七夕祭りを行ったり、中国人以外の外国人にも配慮してハロウィンフェスタを行ったりするなど、広がりを見せるようになりました。
この取り組みにより、文化交流を通してお互いを理解し合うこと、外国人にもそこが自分たちのまちである意識を持ってもらうことができ、トラブルの発生が徐々に減少していきました。
ベッドタウンの人口推移
戦後の高度成長期に起こった大都市への人口集中に対応するために、単なるベットタウンではない多様な町づくりを目指したニュータウンが多数作られました。
人口減少社会を迎えて、そのニュータウンはどのように変化していくのでしょうか。
過疎?過密?ベッドタウンの現状と課題
ベットタウンに存在するこれらのニュータウンは、住民が一斉に入居したため同じく一斉に高齢化を迎えています。住宅などの設備も同様に更新時期となっているため、高齢化に対応した施設への転換が進められています。また、高齢化により自動車運転を止めて交通弱者となった住民向けの公共交通の整備も急務となっています。
そこでこのような地域は、高齢者居住安定基金の活用により高齢者の所有する戸建て住宅を借り上げ、子育て世代に貸し出す事業を展開して世代交代を推進しています。
こうした取り組みの結果、戸建て住宅を持て余した世帯が交通弱者にとっても利便性の高い新築の高層マンションに住み替える例も多く、人口集約が起こっています。
このように、人口減少が進む日本においては、過疎を脱却した地域への周辺からの人口流入やニュータウン内での高層マンションへの人口移動など、広範囲での人口集約が進んでいます。社会資本の効率的な利用という面はありますが、一部の地域の文化が失われる恐れもあり、その全てを是と判断するのは難しくもあります。ただ、これからの日本全体の将来を考えるうえでは避けては通れない課題となるはずです。