この記事の目次
備長炭の効果
備長炭とは
備長炭は、カシ(ウバメガシ)を高温で焼いて後述する白炭にしたもので、三浦式硬度と呼ばれる基準で15度以上の木炭のことです。
木炭は原料の木材と炭を焼く際の温度や焼き方の違いで白炭(シロズミ)と黒炭(クロズミ)とに分けられ、有名な紀州備長炭を含む備長炭は白炭に分類されます。
白炭
備長炭に使われる原料のウバメガシは固い材質の木で、日本では神奈川県以南、沖縄県以北と比較的狭い地域に生育しています。
白炭の由来は製法にあります。ウバメガシは焼く際に1,000〜1,200度の高温で仕上げを行いますが、釜から取り出す際もまだ高温のため、灰をかけて冷まします。この時に灰が表面に付着して白くなるので「白炭」と呼ばれるのです。
白炭を作る技術は非常に高度なもので、この技術を有するのは世界でも日本を含むごくわずか。また、紀州備長炭は白炭の中で特に高級品とされています。
黒炭
黒炭はカシ、クヌギ、コナラなどの原料で作ります。窯の温度は場所により異なり400~700度。白炭ほど高くないため消火後は何もせず自然冷却されるので、炭の表面は黒いままです。
ここまででお分かりのとおり、備長炭というのは木炭のうち特に質の高い白炭を指し、木炭は一般的に黒炭のことを指す(白炭をあえて木炭と呼ぶことは少なく、備長炭と表現するため)と考えていただいて問題ありません。
焼きムラができず材料の奥まで熱が届く
備長炭は高温で焼成(しょうせい)されるため木材内部の不純物や油分などが少なくなり、煙を出さず安定した燃焼が長時間続きます。そのため、料理には焼きムラもできず匂いが付きにくいのが特徴です。
また、遠赤外線の量が多く材料の奥深くまで熱が届くので、料理の燃料として非常に優れています。
さらに、備長炭には表面に微小で無数の穴が空いているため、空中・水中のさまざまな物質を吸収することができます。部屋に置く・下駄箱に入れることで、臭いの除去、水道水のカルキ臭の除去、お風呂の水の浄化などの効果が期待できます。
備長炭と木炭の違い
木炭は炭焼き窯(すみやきがま)などの密閉した状態で木材を加熱し炭化させて作ります。竹もほぼ同じ要領で竹炭(たけずみ・ちくたん)を作ります。
備長炭
備長炭は主に樫(かし)の木の一種であるウバメガシを原料に使います。ウバメガシは木が固く材質も均一のため高温で丁寧に焼くことにより極めて上質な炭になります。
料理店での炭火利用や湿度調節などの利用のほかに、備長炭の特徴でもある叩くと乾いた良い音がすることを利用して、風鈴や木琴のような楽器としても使われます。
木炭
木材は年輪があるだけで内部構造がなく、木炭は比較的簡単に生成できるため古くから作られてきました。古代から、たたら製鉄の燃料、昭和時代中期までは火鉢やこたつなどに、以降は主にキャンプやバーベキューなどアウトドアでの料理用燃料として使われています。
備長炭との違いは、先述したように木材や焼成温度・冷却方法の違いによるもので、備長炭と比べると安価で手に入れることができます。
竹炭
竹炭は燃料利用よりも生活便利用品として利用されます。装飾性も考慮され焼き上がりの形も重要になりますが、木と比べ内部が空洞で節もあるため、製造にはある程度熟練の技術が必要です。
主な用途は、備長炭と同じく湿度調性用として部屋などに置くなど。竹炭は微細な孔が内部まで無数に開いた多孔質(たこうしつ)なので、空気中の余分な水分を吸収し、乾燥時には水分を吐き出します。
また、多孔質は空気中の微細な物質も吸収するため、脱臭や空気の浄化にも利用されています。
備長炭の使い方
備長炭は燃焼させることが難しいものです。炭の内部に水分があると熱で膨張して破裂する恐れがあるため、内部の水分を蒸発させてから点火する方法が一般的です。
使用手順
- 手順1火種とする黒炭(クロズミ)などに着火剤付きのヤシガラ炭などで火をつける
- 手順2黒炭の火で備長炭を20分程度熱し、炭内部の水分を蒸発させる
- 手順3ころ合いを見て黒炭のなかに備長炭を入れて火を移す(不意の破裂に備え金網を乗せて覆うか、火から1m以上離れる)
- 手順4備長炭の表面に白い灰が浮かび全体的に火が十分に回ったことが確認できれば調理が可能
紀州備長炭の特徴
最後に、備長炭では多くの方に知られる有名な紀州備長炭についての解説をしたいと思います。
紀州備長炭の歴史
江戸時代の御三家の一つである紀州徳川家領地の熊野地域は、和歌山に近い順に口熊野(くちくまの)と奥熊野(おくくまの)の2つに分けられます。
元禄時代、口熊野田辺(口熊野の中心地が現在の和歌山県田辺市にあたる)で商人の「備中屋長左衛門(びっちゅうや ちょうざえもん)」が作り始めた炭が「煙も出さず長持ちする」と評判になり大いに売れました。そこで、「備中屋長左衛門の炭」の屋号と名前からそれぞれ「備」と「長」を取り、備長炭と呼ばれるようになったのです。
紀州は雨に恵まれた温暖な土地でウバメガシの生育に向いています。製造技術に加えて原料が豊富であったことも備長炭の一大産地になった理由の一つです。
地域ブランド化の取り組み
備長炭発祥の地である和歌山県は、伝統技術の保護も兼ねて、1974年に紀州備長炭製炭技術を和歌山県無形民俗文化財に指定します。
備長炭の評判は非常に良く、炭の最高級品の代名詞になります。しかし、その名前にあやかろうとさまざまな品質のものが備長炭を名乗り始め、備長炭のイメージは大きく低下します。
この状況に危機を感じた和歌山県は条件を満たした備長炭を紀州備長炭とし、ほかの備長炭と区別して発祥の地の品質と伝統を守ろうとしました。
その定義は下記になります。
- 白炭でウバメガシ(カシ類を含む)を炭化したものであること
- 固定炭素が90%以上、精練度が0度~2度(炭化温度が800~900度以上)であること
- 和歌山県の無形民俗文化財指定の技術で製造され、ウバメガシを主体としたカシ類の天然木を原料として和歌山県内で製炭された白炭であること
この制定はタイミングも良く、2006年から特許庁が作った地域ブランドの第一弾に認定されます。こうして紀州備長炭は全国初の地域ブランドとなったのです。
生産量が順調に増加・イメージも回復
紀州備長炭の地域ブランド化の取り組みにより、
- 生産量は、2004年の1,518トンから2006年には1,735トンと順調に伸びた
- 2007年の「最も買いたい産品ブランド」の工芸部門で4位になり、同時に「品質が良い」「環境に優しい」のイメージではどちらも1位になった
- 新用途を開拓し、寝具のトップメーカーから注文が入るなど販売先が拡大した
といった成果が生まれるなど、今のところその活動は好調のようです。
近年ではアウトドアブームでキャンプを好む方も増えています。その波に乗ってさらに紀州備長炭を含めた備長炭の良さや効果が広まり、人気が高まることを期待したいですね。