この記事の目次
鎌倉彫の特徴
鎌倉彫とは
鎌倉彫は神奈川県鎌倉市やその周辺で作られる漆器で、伝統的工芸品の指定を受けています。漆を何度も重ねて塗ることで深い味わいが生み出されます。モチーフは日本の草花が多く、荘厳さもただよいます。
高度成長期を経て大量生産の時代にあってもその人気は衰えず、現在でも職人は優に100人を超えるほど。さらに、後継者の育成や新商品も継続的に製作されるなど、その活動は活発です。
鎌倉彫を始めとする漆器に使用される漆は耐久・防腐性などが特徴的な素材で、さらに時間の経過とともに強度が増していくという点も魅力です。そのため、しっかりと保存・必要な手入れをすれば長く使用でき、次の世代へと継承することも可能です。
大胆な彫刻と意図的な彫り跡
木地に大胆な彫刻を施し、光と陰を生かす鎌倉彫。なかでも特徴的なのが、文様以外の部分に刀痕を付け意図的に彫り跡を残す技法です。
漆を塗る際には「乾口塗(ひくちぬり)」という漆塗りの技法が使われます。乾口塗は上塗りがまだ乾いていないうちに煤玉(すすだま)やイネ科植物の粉であるマコモなどの粉を蒔き、彫刻の陰影を際立たせるものです。直接黒漆を塗り、さらに朱などの色漆を塗り重ねます。
古くは素材となる木地にイチョウやヒノキ、ホオノキなどが使われていましたが、時代が経つにつれてイチョウが使われることが多くなりました。
図案は主に草花ですが、幾何学模様が彫られたものもあります。
伝統鎌倉彫事業協同組合の積極的な活動
日本伝統の材料や製法、技法を守り、その育成をするために「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」が制定されています。
鎌倉彫も指定を受け、これを受けて1978年(昭和53年)4月3日に結成されたのが伝統鎌倉彫事業協同組合です。
主な活動は下記となります。
- 後継者を確保し、育成する
- 従事者の技術、技法の維持向上を図るための研修を行う
- 品質の向上、改善や技術者の創意力の高揚を図るための展覧会や、需要を開拓するためのイベントなどの開催
- 安定して原材料を入手確保できるための調査研究
- 消費者に適正な鎌倉彫商品を提供させるために製品検査をして、伝統証紙で表示する
- 技能審査認定と伝統工芸士認定
組合は、従事者の育成や保護だけでなく原材料のチェックや製品検査を行い、鎌倉彫を広める努力をしています。
鎌倉彫の歴史
日宋貿易で日本に届いた彫漆品がきっかけ
鎌倉彫の歴史は鎌倉時代(1185~1333年)までさかのぼります。
源頼朝が鎌倉に幕府を開いたことから、鎌倉に多くの人や物が集まるようになりました。こうして武士の気風がある鎌倉文化が形成されていきますが、平安時代中期から行われていた日宋貿易の影響も反映されていきます。
そして、いくつもの禅宗寺院が建立され、美術品などが宋から伝わります。このとき、海の向こうから届いた美術品の中に彫漆品(ちょうしつひん)がありました。木地に何層にも漆が塗られて文様が施された彫漆品に仏師は感銘を受けます。これをきっかけにして仏師が考え出したのが鎌倉彫でした。
江戸時代には茶道の普及で一般に浸透
室町時代になると、彫りが深く落ち着いた色調が特徴的な鎌倉彫の仏具が全国の寺院でも見られるようになります。このころの書物には鎌倉彫を表す「鎌倉物(かまくらもの)」の言葉が見えることからも、鎌倉彫の名は定着していったことがうかがえます。
また、江戸時代になると、高い身分の人たちだけでなく多くの人々も茶道に触れるようになりました。これにともない、茶道具にも鎌倉彫が取り入れられていきます。
神仏分離令からの復活
その後、明治に発令された神仏分離令により、鎌倉彫に携わっていた仏師は仕事を失います。しかし、鎌倉彫の仏師として残った後藤家、三橋家の二軒が鎌倉彫を工芸品として発展させようと尽力。国内のみならず世界博覧会への出品を重ねて好評を得て、知名度を広げていきました。
さらに、横須賀線が開通したことで避暑として鎌倉へ足を運ぶ人も多くなりました。これを受けてお土産や日用品としての鎌倉彫製品も作られるようになります。
鎌倉彫はいくつもの時代を経て、鎌倉の歴史と文化、高い技術を伝え続けています。
鎌倉彫の作り方
木地づくり
鎌倉彫の素材には、主に北海道産の桂が使われています。水分が抜けている冬場に伐採し、製材したのち半年から1年かけて自然乾燥させます。
乾燥した木地は製品の形に切り出されます。お盆など丸型のものはロクロで挽き、箱物は指物師などが加工します。切り出された木地は、風を通したあとに仕上げの作業を経て完成。木地が完成するまで数年かかります。
彫り
たち込み
まず、木地に文様などの図案を転写します。図案が写ったら、図の線に沿うよう小刀で「たち込み」を行います。たち込みとは図の遠近感やボリュームを表現するもので、小刀を入れる角度で調整します。
際取り
文様などを浮き上がらせるため、たち込みをした線の外側を落としていきます。
刀痕・とうこん
さまざまな刀を使い、文様の肉付けを行います。鎌倉彫の特徴である「文様部以外の場所に付ける刀痕」も、ここの作業で付けられます。
漆塗り
木地固め
漆から採取した樹液である生漆を木地の全面に塗り、漆を塗るための素地を作ります。
蒔き下地
生漆を塗ったあと、炭粉や砥の粉を蒔き付けます。漆が乾燥したら研ぎ、彫刻面をなめらかにします。
中塗り
厚さを増すために黒漆を塗ります。彫りの細部に漆が溜まらないよう、丁寧に塗られたあと研ぎ上げられます。
上塗り
透漆(すきうるし)に朱の顔料を合わせ、木地に塗ります。
乾口とり・マコモ蒔き
上塗りが生乾きのうちに、マコモ粉や煤玉の粉を蒔き付けます。これが古色味のある鎌倉彫の色を生み出します。
摺漆・すりうるし
生漆を薄く塗り、木綿の布で拭き取ります。2、3度繰り返すことで美しいツヤが出ます。
鎌倉彫の良さを楽しむ
博古堂「ぐり唐草 長方盆」
博古堂が鎌倉に店を構えたのは1900年(明治33年)。仏像制作のため奈良から鎌倉に来た慶派の仏師の末裔が当主を勤めています。鎌倉彫全体に影響を及ぼした、文様まわりの角を削りなめらかに仕上げる「後藤彫り」でも知られるお店です。
さまざまな文様で彫られる博古堂の商品ですが、人気が高いものが中国漆工「堆朱」の代表的な文様である「ぐり唐草」です。
博古堂「ぐり唐草 長方盆」は、つややかでシンプル。ぐり唐草が彫られているのは持ち手部分のみですが、彫りが深く密度があるため、ほんの一部のみでも存在感が際立ちます。
長方盆の美しさを引き立てるような品の良さとモダンさがあり、さまざまな場面で使うことができるでしょう。
陽雅堂・紳士下駄「鎌倉彫 日光 龍」
鶴岡八幡宮の正面にある鎌倉彫専門店、陽雅堂。鶴岡八幡宮に足を運ばれた方のなかには、お店をのぞいたり、お店の前で足を止めた方も多いのではないでしょうか。
店内にはお盆や汁椀、お皿のほか、手鏡や帯留め、ブローチなどのアクセサリーまで、唐物様式を踏襲した商品が数多く並んでいます。そのなかでも人気が高い商品が鎌倉彫の桐下駄です。
下駄を作る際は、材料である桐の木目も非常に重要な要素となります。材料となる桐を裁断すると木目が現れます。下駄表面から歯に至るまでまっすぐに木目が入るものが「柾目(まさめ)」、不規則な木目が「板目(いため)」と呼ばれ、美しい柾目ほど希少性が高くなります。
陽雅堂では節や木目、色の違いを隠すために彫刻・漆塗りを行い、柾目を生かす「鎌倉彫桐下駄 柾目生かし」を作り上げました。職人の数が減ったことで一時生産が止まっていましたが、復刻版が発売されたことで多くの人に支持されています。
紳士用の桐下駄「鎌倉彫 日光 龍」には美しい朱塗りの下駄表に躍動感あふれる「龍」が彫られており、下駄を脱いだ際、左右に彫られた龍が一つの絵になります。印伝で作られている鼻緒も朱の漆によく合っています(商品リンクは他の下駄になります)。
山水堂・箸「鶴」「亀」
お盆や茶托、銘々皿、写真立てなど、ちょっとしたお祝いやお土産にぴったりの商品を多く扱っている山水堂で人気を集めているのは、鎌倉彫が施された箸。
持ち手部分に縁起物の「鶴」や「亀」が彫られた箸は、2本そろえると鶴や亀の姿が現れるようになっています。
サイズは大が23.5センチ、小が20.5センチ。夫婦箸としてもおすすめです。贈答用に桐箱や紙箱もありますので、贈り物にする際は合わせてみてはいかがでしょう。
山水堂はオーダーメイドや修理も行っており、商品には鎌倉彫を大切に思う心がこめられています(商品リンクは他の箸になります)。
鎌倉時代より受け継がれてきた伝統の技法「鎌倉彫」、いかがでしたでしょうか。さまざまな技法で大胆に彫られた彫刻の画だけでなく、陰影をじっくり眺め、伝統の技を味わってみてください。