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西陣織の特徴
20以上の工程を経る多品種少量生産方式
西陣織とは、京都の西陣地区で生産される多品種少量生産方式を基盤とした先染めの紋織物の総称です。例外もありますが、ほとんどがよこ糸で模様を織り出す「緯錦(ぬきにしき)」という技法で織られていることが特徴です。
先染めとは、名前のとおり布を織る前に糸や繊維を染色することです。糸そのものに色がしっかりと乗っているため、奥深い色合いを楽しむことができます。
西陣織が織り上がるまでには20以上という多くの工程があり、一つ一つの工程で熟練した技術者が丹念に作業を行っています。西陣織といってもその種類は国に指定されているだけでもなんと12個!糸の種類や織り方によって、さまざまな紋様が生み出されているのです。
西陣織の歴史
西陣織の起源は1200年前の平安時代。中国の文化や技術を取り入れながら、宮廷の織物工房として発展したことがはじまりです。織物の職人たちは現在の京都市上京区上長者町に集まり、時代の移り変わりとともに宮廷お抱えの工房ではなく、独立した工房として織物業を営むようになりました。
室町時代には大舎人座(おおとねりざ)という同業組合を組織し、朝廷からの要望に応えながら一般の公家や武家などの注文にも応じていき、優れた織物を生み出し続けていました。
西陣という名前が登場したのも室町時代の1467年のことです。実は西陣とは、京都の街を舞台に東軍と西軍が争う応仁の乱がきっかけで生まれた地名でした。
この11年も続いた内乱のため、京都にいた織物職人たちは戦火を逃れ避難。織物業界は壊滅的な被害を受けましたが、戦乱後は再び京都に戻り西軍の本陣であった大宮今出川付近で織物業を再開しました。つまり西陣とは「西軍の本陣の跡」の略称で、その地で栄えたことから西陣織という名前が誕生したのです。
衰退からの大復活
その後江戸時代に入り、西陣織は幕府の保護もありながら中国の技術を取り入れて、より優れた織物を生産しました。そして、西陣には大きな糸問屋や織屋が立ち並ぶ織屋街が形成され、高級織物はもとより、ちりめんやなど多くの取引が行われる黄金時代を迎えました。
しかし、1730年に「西陣焼け」とも言われる大火災が発生。この火災によって民家や織機など多くが焼失。さらに、原材料である生糸の高騰や幕藩体制の解体、東京遷都による需要者の喪失などのさまざまな要因が重なり、西陣織は衰退の一途をたどりました。
それに危機感を覚えた京都府は、1869年に西陣織職工の保護育成や技術革新を目的に西陣物産会社を設立。諸外国への留学や新たな織機の導入など洋式の技術を取り入れ、西陣は1889年には最新にして最大の絹織物産地として成長をとげました。
その後も世界各地の博覧会に出品・受賞し、西陣織の名を広く高めていきました。
そして戦後、西陣織は機械化がさらに進み、新しい技術を次々と導入していきました。それまで帯や着物が中心だった製品も、市場ニーズの移行とともにネクタイやショール、和装小物などの新たな製品に姿形を変え、今も西陣織はニーズに合わせさまざまな変化を続けています。
西陣織の魅力
クリスチャン・ディオールやシャネルとのコラボ
後述するように、さまざまな製品と結びつき生まれ変わり続ける西陣織。今では、海外のさまざまなブランドとのコラボレーションも実現しています。その背景には、海外商品の流入やライフスタイルの変化による着物市場の需要の減少がありました。
国内だけでなく世界各地の企業や商品とコラボし、西陣織の新たな価値を創り出す必要性が出てきたのです。元禄時代より西陣織の呉服店を営んできた「株式会社細尾」もその一つでした。
株式会社細尾社長の細尾真尾は1970年代後半にミラノのアパレル製造卸売会社でさまざまな海外のファッションに触れた経験から西陣織の技術力の高さや素材の美しさを再認識し、「西陣織を海外へ広めたい」と感じていました。
真尾は父親の病をきっかけに家業を継ぎ、西陣織を世界へ広めるため、2005年にパリの国際見本市へ和柄の椅子を出展。商談にこそつながらなかったものの、西陣織の質と技術力の高さを認識しました。
その後、ニューヨークで開催された展覧会に出品したところ、著名な建築設計事務所であるピーター・マリノの目に留まり、「クリスチャン・ディオール」の店舗用インテリアのオーダーが実現します。
これまで日本の規格だったものを海外規格に合わせ作り直すなどさまざまな課題や困難に直面しましたが、柔軟に要望に応え見事成功に結びつけました。その成功が実り、真尾は有名ブランドであるシャネルやルイ・ヴィトンのインテリア用途でのコラボレーションも実現させています。
年に一度の「千両ヶ辻祭り」
歴史が深い西陣織を楽しむことができるイベントが年に一度、秋分の日に開催されています。それが「西陣・千両ケ辻伝統文化祭(通称「千両ヶ辻祭り」)」です。
西陣地区に生糸や織物問屋が軒を連ねていたの江戸時代、その西陣地区では一日に千両に値する生糸や織物の取引が行われ「千両ヶ辻」と呼ばれるようになった地名がありました。
千両ヶ辻祭りでは、当時の西陣を舞台に、その界隈のお店が西陣織のコラボ商品の販売をはじめ、西陣織の着物の着付けや和物づくりのワークショップ、工場の見学など、多くのお店がイベントを盛り上げます。西陣織を思いきり体感したい方は、秋分の日にぜひ足を運んでみてください。
西陣織の美しさを楽しめるネクタイなどの商品
長い歴史を持つ西陣織。帯や着物だけでなく、さまざまなツールとコラボした製品も数多く生まれています。そんな優雅で華やかな西陣織の人気商品をご紹介します。
FORTUNA Tokyo 西陣織 ネクタイ
日本の伝統にトレンドを融合させた「和モダン・クラシック」を提案しているFORTUNA Tokyoの西陣織ネクタイ。高品質な国産シルク100%の製品で、「日本の伝統工芸がいつまでも続いて欲しい」というブランド創業者の願いが込められています。
京都和彩工房 西陣織金襴 本革 和柄 長財布
西陣織高級金襴地(きんらんじ)と牛革を使用した長財布です。金襴とは、金色の糸をよこ糸に加えて模様を織り出した織物のことです。金切箔または金糸などで紋様を織り出した美麗豪華な織物ですが、実用性も高く、カジュアルや洋装など幅広いコーディネートが可能な商品です。
京都荒磯 西陣織名物裂 和装マスク
京都西陣織を使った優雅な和装マスク。鎌倉時代から江戸時代にかけて茶道の発達にともない茶器を入れる袋や茶席の掛物の表装として用いられた西陣織「名物裂(めいぶつぎれ)」。この名物裂を大胆に使用しながらも、落ち着いたシックな大人の雰囲気が漂う一品です。
いかがだったでしょうか。1000年以上もの歴史を持ちながら、今も姿形を変え継承されている西陣織。技術者の平均年齢が65歳以上であることや後継者不足にともない、未来へそれをつないでいくための課題も浮き彫りとなっています。
しかし有名ブランドとのコラボなど、世界にもその価値の高さが認められています。課題をどう乗り越え、どのように進化を遂げていくのか、今後も西陣織の発展に目が離せません。