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地産地消の生産者にとってのメリット
地産地消には多くの魅力的なメリットがありますが、それらを生産者・消費者それぞれの目線から分類してみたいと思います。まずは、地産地消の簡単な説明と生産者にとってのメリットから紹介していきます。
地産地消とは
地産地消という言葉は、昭和56年から4ヶ年計画で農林水産省が進めた「地域内食生活向上対策事業」から使われるようになりました。地産地消を推進することにより地域特性を生かした食生活を築き、農村部での健康増進を図ることが目的です。
地産地消が行われるようになった背景としては、以下の3つが挙げられます。
- 高度成長期による広域流通システムが成立したことで流通網が発達し、地方で生産されたものが都市圏に一局集中するようになった
- 食生活の洋風化により地方でも外食が増え地方自給率が低下した
- 輸入自由化により海外からの輸入品が増えた
「生産物の旬や地性が失われ、誰がどこでどのように生産しているか分からないものを買う」という状況を解決し、消費者と生産者の距離を縮めたいという意識の高まりが地産地消の取り組みへとつながりました。
新たな収益源が確保できる
生産者から見ると、地産地消のメリットとして非常に大きいのは収益面です。大規模小売店に卸すためには安定的かつ規格・品質の均一化が求められることが多いですが、地産地消では、生産者が直接販売できるケースや地域の小売店が小ロットで扱ってくれることも増えるため、少量品目や規格外品の販売も可能になります。
これまで商品にならなかった作物が収益化できるだけでなく、規格品についても地元で販売することで流通経費の削減により手取りを増やせる可能性もあるでしょう。
規格外品に関しては、観光農園などが実施する果物狩りや野菜の収穫体験にもメリットがあります。規格外や傷モノなど本来は市場に出せないものでもその場で収穫して美味しく食べてもらえるケースがあるからです。観光客にとっても、フードロスの削減などの意識が芽生える可能性があるといったメリットが考えられるなど、両者にとって嬉しい取り組みと言えるでしょう。詳しくは以下のページをご覧ください。
観光農園の成功事例と現状|メリットっていったい何?効率的に品質の改善ができる
地産地消のメリットの二つ目は、消費者の声が直接届きやすいという点です。直売であれば直接お客様の声を聞いて商品の量や価格を改善したり、加工品であれば味付けを調整したりと、品質やサービスの向上に活かせます。
直売でなくても、消費者と地理的に近ければ直接感想を言ってもらえることもあるでしょうし、地域の小売点などから売れ行きについて直接フィードバックをもらうこともできるでしょう。
直売所を取ってみても、農協、第三セクター、生産者の任意団体、民間企業などさまざまな運営形態があります。そこでは、
- 朝採り野菜をその日のうちに販売
- 取り扱いは地元野菜のみ
- 生産者名・栽培方法を表示
などの工夫がなされ、消費者への安心感の増加・地域の活性化・販路拡大などの効果が出ています。
地域の活性化や技術の保全ができる
3つ目のメリットは、女性活躍を始めとした地域活性が期待できたり、高齢者に楽しみを提供できたりすることです。
例えば、福岡県西部糸島半島にある直売所「伊都菜彩」は農協が運営している直売所で、平成19年にオープンしてから、今では年間約40億円を売り上げるまでになっています。
糸島産であることを掲げ、専業農家だけでなく女性や高齢者など多様な地域農業者が参加することにより、豊富な品揃えが可能となっています。また定期的に講習会や残留農薬検査を実施することで、安全性の確保と生産者の意識向上が図られています。野菜だけでなく、果物、肉、魚、総菜などの糸島の食を存分に楽しめることで顧客満足度を上げ、リピーターを増やしています。
また、農地や地域に根付いた農業技術の保全・継承になるというメリットも期待されています。
地産地消の消費者にとってのメリット
新鮮な食べ物を購入できてSDGsにも貢献できる
消費者から見た地産地消の最大のメリットは、なんといっても新鮮な野菜や果物などを手に入れられることでしょう。もし不揃いなものでも、新鮮な作物にはそれだけ豊富な栄養が詰まっています。旬の食べ物を好きな時に購入できるのはとても魅力的ですね。
自分の目で生産状況を確認できる
近年ではトレーサビリティが浸透して、大規模小売店でも生産者の情報や顔写真を売り場に掲げている場面も多く見かけますが、地産地消の現場ではそれらをさらに身近に知ることができます。
もし気になったら直接農園に足を運んで外から眺めることもできるでしょう。実際の生産現場を一度見た上で納得して食べ物を購入すれば安心感も深まりますね。
地域の食文化への理解が深まる
地域の食文化への理解を深めるためなどの目的で、学校給食でも地産地消が推進されています。平成20年6月には学校給食法の改正によって「地域の産物を積極的に利用する」旨が明記され、子供たちが地域の自然環境、食文化、産業、生産者への理解を深め、食べ物への感謝の心を育むことが目標の一つとされました。
例えば埼玉県は、首都圏でありながら米・小麦・野菜・畜産などの全国有数の生産地で、学校給食にも地産地消を積極的に取り入れています。
埼玉県学校給食会は、昭和25年に県庁内に設置された任意団体からスタートし、平成10年に政府米から県産米に切り替えたことを機に、地産地消の推進を進めてきました。県内産農畜産物を使用したごはん・パン・めんなどの基本食材を始めとして、栄養バランスの取れた食事を提供できるように商品の開発・仕入れをしています。例えば、埼玉県産小麦100%のロールパンや埼玉県産大豆100%の納豆も出されています。
また、食育月間の6月と収穫の秋の11月には、給食に地域で採れた食材を組み込むことで生産者への愛着を深める「彩の国ふるさと学校給食月間」や、地元産食材の促進を目的とする「彩の国学校給食会研究大会」も行われています。
地産地消のデメリット
メリットが多くあるように見える地産地消ですが、デメリットも存在します。最初の二つは生産者にとって、最後の一つは消費者にとってのデメリットになります。
出荷や販売のための追加の労力が必要になる
地産地消に取り組んだからといって何でも売れるようになるわけではありません。さらに、出荷や販売、加工品を作る場合には加工の手間も増えるため、リスクをともなう面もあるでしょう。
幅広い分野の知識が求められる
特に6次産業化する場合は、品質管理や販売促進など生産以外の能力が求められます。それらを自分一人だけでこなすのは難しく、現実的には人を雇うケースが多くなるでしょう。そうなると、初期投資だけでなく雇用のコストも追加でかかるようになります。詳しいメリットやデメリットについては以下のページで解説していますので、ぜひご覧ください。
6次産業化のメリット・デメリット|失敗事例もビジネスモデルのヒント価格が割高だったり欠品の場合がある
地産地消では、大量ロットでの配送・販売が減り、価格が上がるケースが多くあります。さらに、時期によっては品揃えが偏ってしまうこともあり、欲しいものが手に入らない可能性も出てきます。
地産地消は生産者と消費者の距離が近く地域の活性につながる取り組みです。その取り組みの認知を高めるためには、普及活動や地域の連携の促進などを行い、それと同時に、安心感や信頼性を高めるための安全性の確保も課題です。国には、それらを推進するための助成事業などを引き続き充実させていくことが求められています。ぜひこれからにも期待したいですね。