歴史ある日本の伝統工芸常滑焼の良さと美しさ|その魅力と特徴を解説

急須といえば常滑焼 絶大な人気を誇るその理由とは

「急須といえば常滑焼(とこなめやき)」と言われるほどに有名な伝統工芸品。表面が滑らかで美しい赤色の急須だけでなく他の焼き物も魅力的で、全国的にも高い人気を誇っています。今回はそんな常滑焼の良さと特徴、さらには日本六古窯についても紹介していきます。

常滑焼の良さ

常滑焼の良さ

常滑焼とは

常滑焼(とこなめやき)は、愛知県常滑市を中心に古くから作られている焼き物です。常滑市は愛知県の西部に位置し、西側は伊勢湾に面しています。市域を含む知多半島中部において粘土質の土が豊富に産出されるため、その土を使用して常滑焼が作られるようになりました。

その歴史は古く、製造は平安時代から始まりました。当時、常滑地区には焼き物を作るための穴窯が3000基近くもあったとされています。今でも瓶や壺などさまざまなものが焼かれており、日本六古窯(にほんろっこよう)の一つとされています。

知多半島の粘土質の土は自動車産業と深い関わり
粘土分が多い知多半島の土ですが、粘土は水分を含みにくいため、雨が降ってもその水が土壌に蓄えられにくく、すぐ海へと抜けていってしまいます。そのため、知多半島では歴史的にため池が多く作られ、灌漑(かんがい)のための農業用水として利用されていました。その後、水不足に備えるためにダムの建設が行われるにしたがって都市用水も確保され、自動車部品製造業の発展へとつながっていったのです。常滑焼と愛知県の自動車産業には意外にも深いつながりがあったのですね。

常滑焼の特徴

現代における常滑焼の最たる特徴としては赤褐色の色味が挙げられますが、「彫り」「のた絵」「龍巻」という他の窯産地では見られない独自の伝統技法も注目すべき点。瓶や壺、皿などの常滑焼は、それらの技法を駆使して作られており、伝統的な絵柄で彩られた美しい器は高級感と荘厳な雰囲気を持っています。

  • 彫り:器の表面に絵柄や文字を彫る技法
  • のた絵:粘土に顔料を混ぜて水で溶いた絵具を用いて絵を描く技法
  • 龍巻:龍などを粘土でレリーフ状に薄く作ったものを器に貼り付けること

また、常滑焼の良さは赤褐色の焼き物ばかりではありません。鉄分の多い陶土の性質を巧みに生かした赤褐色の朱泥焼が常滑焼の代表的なものであることは間違いありませんが、ほかにも白泥焼や火色焼など、使用される土の成分や方法によって焼き上がった際の色味や性質も変わってくるのです。

 

常滑焼の魅力:急須

常滑焼の魅力:急須

急須といえば常滑焼

「常滑焼といえば赤色の急須」というイメージが浸透しています。

常滑焼の赤色の特徴である「朱泥焼」という方法が始まったのは江戸時代後期。焼き物の歴史のなかでは比較的新しい部類に入ります。そのころ活躍していた常滑焼の陶工である鯉江方寿(こいえほうじゅ)が中国から急須作りを学び、その製法を広めたことが朱泥焼の始まりでした。

江戸時代後期から盛んになった煎茶の風習に合わせて、朱泥焼で作られた急須は日本中へと伝わっていきます。

お茶の渋みや苦みを取り除いてまろやかに

というのも、朱泥焼で作られた急須は、お茶の渋みや苦みを取り除きまろやかな味わいを生み出すという特徴があったのです。これは、主成分である酸化鉄とお茶のタンニンが反応を起こすためだと科学的にも証明されています。

江戸時代後期より広まった常滑焼の急須が現代まで引き継がれている理由は、その美しさや質の高さはもちろんのこと、私たち日本人の身近にあるお茶の味をより楽しませてくれるという良さがあるからでしょう。

また、現代における常滑焼の急須は、何も赤色でスタンダードな形のものばかりではありません。江戸時代に作られていた急須とは異なり、釉薬(ゆうやく)という、焼き物に光沢や色味を付け、吸水性を持たせ、割れにくくするといった目的の薬品でコーティングが施されています。

そのため、従来の赤みの急須ではなく、黄土色、黒々、茶々、緑色などさまざまな色味の急須も登場しています。さらに、若い職人を中心として、これまでの急須の形にこだわらないモダンで多様な形の急須も製造されています。

一般的に常滑焼は焼締が主流
上記のとおり、現代の常滑焼の中には釉薬を用いるものも増えてきましたが、一般的には常滑焼に色味を持たせる目的で釉薬が使われるのは比較的少なめで、そのように焼かれた焼き物は「焼締(やきしめ)」と呼ばれます。

盛正 朱泥中平急須

常滑焼急須の代表の一つ「盛正」をご紹介します。常滑焼特有の朱泥が特徴の陶製茶漉し(セラメッシュ)で、お茶本来の味・香りを楽しむことができます。オーソドックスな形のため、手入れがしやすく持ちやすいのも嬉しいポイントです。

朱泥土を使った急須だけなく、黒泥土を使用した大人の落ち着きがある黒色の急須も取り扱われています。

 

常滑焼の魅力:招き猫

常滑焼の魅力:招き猫

巨大な招き猫がお出迎え

歴史と伝統のある常滑焼が作られている常滑市を訪れると、レンガづくりの煙突や窯、陶器の廃材を利用した土管坂など、さまざまな魅力ある風景に出会うことができます。何といっても一番の驚きは、常滑焼で作られた巨大な招き猫「とこにゃん」がお出迎えをしてくれることです。

常滑駅から常滑市陶磁器会館へ向かう道路にある「とこなめ招き猫通り」。この通りに面した高台にそびえ立つものこそが、高さ3.8メートル、幅6.3メートルの巨大猫「とこにゃん」です。ほかにもこの通りには、「御利益陶製招き猫」が39体、「本物そっくりの猫」が11体も飾られています。

「御利益陶製招き猫」は常滑市の陶芸作家39人が愛情を込めて一体ずつ制作し、健康成就や安産など、39体にさまざまなご利益が込められています。「本物そっくりの猫」は、その名前のとおり実物と区別が付かないほど正確に作られているため、見間違えられることもしばしば。

これだけの数の招き猫があるのは、常滑市の招き猫の生産が日本一であることに由来しています。常滑市を訪れた際は、ぜひ「とこなめ招き猫通り」を歩いてみてください。

常滑焼 招き猫 4号

ここで、常滑焼で作られた招き猫をご紹介します。実は、招き猫はその色味や上げている手によってさまざまな意味や願いが込められていることを表します。左手を挙げているこの商品には、福を招き、お客さまを招く願いが込められています。

なお、ほかの招き猫の意味や願いは以下のとおりです。

  • 赤い色の招き猫:疫病除け
  • 黒い色の招き猫:除難免災
  • 金色の招き猫:金運を招く
  • 右手を挙げる招き猫:お金を招く

 

日本六古窯の一つとしての常滑焼

日本六古窯の一つとしての常滑焼

日本六古窯とは

冒頭で、常滑焼が日本六古窯の一つであることを記載しました。日本六古窯とは、日本古来の陶磁器窯のうち、中世から現在まで生産が続く代表的な6つの窯の総称のことを指します。瀬戸焼、越前焼、信楽焼、丹波立杭焼、備前焼、そして常滑焼がこれに該当します。

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日本六古窯サミット

年に一度、日産地間交流を進めて世界に通用するブランドを確立するために、日本六古窯の各代表が集まる「日本六古窯サミット」が会場持ち回りで開催されています。このサミットに合わせてさまざまな焼き物のイベントも催されていますので、興味がある方はぜひ訪ねてみてはいかがでしょうか。

常滑焼の歴史

日本六古窯のなかでも最も大きい産地だったのが常滑焼とされています。常滑焼は中世から東北・関東・中部・関西・中国・九州地方まで日本全国に運ばれ、使用されていました。

江戸時代に入ると真焼けの陶芸品が、江戸末期には土管や朱泥茶器なども常滑焼で作られるようになりました。明治時代に西欧の技術が導入されて機械化が始まると、陶管や焼酎瓶、煉瓦タイル、衛生陶器などのさまざまな製品へと変貌を遂げていきます。

その後、技術の飛躍とともに近代設備による大量生産が始まり、製品の種類や質、生産額も大きく伸びていきました。時代とともに常滑焼は姿形を変え、今なお私たちの生活を支えている伝統ある文化となっています。

 

常滑焼の人気の秘密は、古くから親しまれ続けてきたことや、その質の高さにあります。そして何よりも、私たちが日常的に親しむお茶をおいしく飲むことができるという、その性質も大きく影響を与えたに違いないでしょう。