この記事の目次
阿蘇山は活火山だけど噴火するの?
生きている阿蘇山
2016年10月8日、阿蘇山中岳第一火口で爆発的噴火が発生しました。中岳で爆発的噴火が発生したのは1980年1月26日以来のことで、36年ぶりとなります。
2016年、熊本県では4月に最大震度7という大地震が発生していました。この際、震度7の地震の後にも最大震度6弱〜7の地震が立て続けに発生し、近くに位置する阿蘇山への影響が懸念されていました。
この一連の地震からおよそ半年後の噴火であったために大規模な噴火に発展するのではないかと心配されましたが、噴火は一度だけで収まりました。
活火山である阿蘇山は、気象庁が24時間体制で火山活動を監視している「常時観測火山」の一つです。日本には活火山が111ありますが、常時観測火山となっているのはそのうちの約半数、50の火山です。噴火が発生したり噴火の可能性が非常に高まった場合には噴火警報が発表されます。
噴火警戒レベルとは
阿蘇山とその周辺には人びとが暮らしています。また、世界ジオパークにも認定されており、国内外から多くの観光客が訪れています。これらの人びとの生命と財産を火山災害から守るため、阿蘇山では「噴火警戒レベル」が運用されています。
噴火警戒レベルとは、火山活動の状況に応じて「どれだけ警戒が必要か」「必要な防災対応はどのようなものか」を5段階に区分した指標です。
各レベルには、火山周辺の住民・観光客・登山者がとるべき防災行動のキーワードが設定され、そのレベルで何をすべきかを分かりやすくしています。阿蘇山で運用されている噴火警戒レベルは気象庁から発表されています。
地元の自治体は噴火警戒レベルをリーフレットにまとめ、各レベルにおいてどこまでが立入規制となるのかを住民・来訪者に対して周知させています。例えば2016年10月の噴火では、一時、噴火警戒レベルが「3」にまで引き上げられました。
火山は生きものであって、いつ噴火するかは誰にも分かりません。常時観測火山で噴火警戒レベルが運用されていても、火山活動が急激に活発になり警報が間に合わない場合もあります。
実際、2014年9月の長野県の御嶽山においては突然噴火活動が始まり、秋の行楽シーズンの週末であったことから多くの犠牲者が出てしまいました。阿蘇山に限らず、火山はいつ噴火するか分からないということを念頭に置いて、たとえ噴火警戒レベルが低かったとしても常に用心する必要があります。
阿蘇山が噴火する可能性
阿蘇山は有史以来たびたび噴火してきました。ここで噴火警戒レベルごとの過去の噴火を見てみましょう。
噴火警戒レベル5
有史以降の事例はない。研究の結果、最も近いのものとしては、溶岩流が米塚から約4kmまで到達した約2000年前の噴火
噴火警戒レベル4
有史以降の事例はない
噴火警戒レベル3
1958年6月、火砕流が第一火口から約1.2kmまで到達。ほかには1933年2月、1958年6月、1979年9月に発生。最近では、2021年10月に中岳第一火口で発生した噴火が知られる
噴火警戒レベル2
1977年7月、噴石が第一火口から約800mまで飛散。ほかには1953年4月、1957年12月の噴火で噴石が飛散。2003年、2004年、2005年にもごく小規模な噴火
もし阿蘇山が噴火したら
阿蘇山が噴火した場合に生じる恐れのある災害としては、噴石・降灰・火砕流・溶岩流・降灰後の土石流などがあります。
噴石
噴火によって直径数cm〜数10cmの岩石が飛びます。2014年の御嶽山噴火の際には、火口周辺で軽トラック大の岩石が飛ぶのも目撃されています。高速で飛ぶため、コンクリートを突き破ることもあります。
降灰
噴火によって噴出した火山灰が降ったものです。吸い込むと肺や気管支に影響が生じます。降り積もると木造家屋が倒壊したり、農作物や電子機器、交通機関にも影響を及ぼします。
火砕流
火山灰や噴石を含む火山噴出物が斜面を高速で流れ下る現象です。阿蘇山では、1958年の噴火時に起きた火砕流で12名の死者が出ました。
溶岩流
マグマが地表に噴出して流れ下る現象です。950度〜1,200度と高温で建物などを焼き尽くします。流下速度は遅く、人が歩いて逃げられる程度です。阿蘇山では有史以来発生していません。最も最近と考えられる約2000年前の溶岩流は、火口から約4km先まで溶岩流が到達しています。
降灰後の土石流
噴火によって山腹斜面に火山灰が堆積している場合には、少量の雨でも土石流が発生する恐れがあります。木や石などを巻き込みながら、速度を増して流れ下ります。
ここまで見てきたのは阿蘇山において可能性が高いとされる、中岳などの中央火口丘郡による噴火災害です。阿蘇山は巨大噴火によって中央部が陥没した「カルデラ」と呼ばれる地形を有しています。阿蘇カルデラは、東西約18km、南北約25km、面積は約350平方kmと、世界最大級の大きさです。
もしもこのカルデラで「破局噴火」と呼ばれる大規模噴火が発生すると、火砕流によって九州全域は焼き尽くされ、火山灰は遠く北海道まで到達し、首都圏でも火山灰が20cm降り積もるとする予測結果もあります。
カルデラ噴火が起こる可能性は極めて小さいものの、1991年にフィリピンのピナツボ山で発生した事例もあり、絶対に起こらないとは言い切れないのです。
阿蘇山の地熱発電プロジェクト
再生可能エネルギーとしての地熱発電
地熱発電は、火山などの地球内部が持つ熱エネルギーから電気を生み出します。化石燃料を全く使用しないので二酸化炭素を排出せず、クリーンな発電と言えるでしょう。また、太陽光や風力とは異なり天候や時間に関係なく発電でき、常に一定の電気が作れる安定電源でもあります。
火山が多くある日本には膨大な地熱エネルギーが存在し、地熱発電に適しています。しかし、地熱エネルギーの多い場所は景色が美しく多くの人が訪れる国立公園内でのために開発規制があったり、温泉地のために温泉旅館を経営している人びとから反対されることも多く、開発がなかなか進まない現状があります。
日本における最初の地熱発電所は1966年に運転を開始した岩手県の松川発電所です。その後、東北と九州を中心に地熱発電所が建設されましたが、1999年の八丈島発電所を最後に新しい発電所はできていません。
日本は地熱エネルギーの資源量が世界第3位でありながら、地熱発電設備の容量は世界で10位前後にとどまっています。
阿蘇山の北東側にある大分県は、南西部を中心に地熱発電開発が進んでいる地域です。自家用・事業用合わせて19ヶ所ある国内の地熱発電所のうち7ヶ所が集中しています。このうち九重町にある八丁原発電所では、1977年に1号機、1990年に2号機が完成し、合計出力は11万kWと国内最大の地熱発電所となっています。
地熱発電のデメリットは?メリットや仕組みも詳しく解説!阿蘇山で着々と進む地熱発電プロジェクト
そのようななか、新しい地熱発電所の建設が阿蘇山周辺で計画されています。
阿蘇山の南側にあたる南阿蘇村湯ノ谷において、2017年9月から地熱資源量を把握するための井戸の掘削が始まりました。この動きとは別に、南阿蘇村ではもう一つの事業者グループが地熱発電事業の計画を進めています。
国内では停滞していた地熱発電開発の取り組みとして今後の推移を見守りたいところです。2023年1月現在でも、阿蘇地域で10件近くの地熱発電所の建設が計画されているなど、阿蘇山・熊本県での地熱発電の発展からは目が離せません。
世界有数の大型カルデラを持つ阿蘇山
阿蘇山の見どころ
阿蘇山が世界有数規模のカルデラを持つことは先にも少し触れました。このカルデラによって、阿蘇山とその周辺は非常に特徴的な景観が作られており、数多くの見どころがあります。
阿蘇カルデラ
阿蘇カルデラは何度も大規模な噴火を繰り返して、最終的には中央部が陥没して現在の姿になったと考えられています。大規模噴火によって発生したと見られる火砕流の痕跡は、遠く島原半島や山口県でも確認されています。そしていま、このカルデラの中には市街地や農地があり、およそ7万人が暮らしています。
カルデラの姿をよく観察することができるのは、カルデラ北側の大観望、西側の二重峠、南西側の俵山峠などです。
中央火口丘とその周辺
中岳火口 |
阿蘇観光の中心地で、常に噴気を上げる活動的な火口の様子を間近に観察できます |
米塚 |
約2000年前の噴火で形成された火口「スコリア丘」です。非常に整った形をしています |
砂千里が浜 |
中岳火口の東側に位置する砂や岩などの火山堆積物で覆われた平原で、火山独特の荒涼とした風景が広がっています |
草千里ヶ浜 |
中岳火口の西側に位置する平原です。砂千里が浜よりも古い時代に形成され、この場所とは対照的に緑の草原が広がっており、放牧も行われています |
カルデラ内
立野溶岩の柱状節理 |
カルデラ西端の立野峡谷付近に見られる柱状節理です。厚さは約100mにもなる大規模なものです |
らくだ山 |
阿蘇カルデラ南東部のカルデラ壁を構成しています。貫入した岩脈が独特な地形をつくっています阿蘇カルデラ南東部のカルデラ壁を構成しています。貫入した岩脈が独特な地形をつくっています |
外輪山
荻岳 |
阿蘇火砕流堆積物の火砕流台地から突き出た島状の山地です。山頂からの眺望に優れています |
羅漢山奇岩群 |
カルデラ南西部に位置し、岩峰群や天然橋状岩などの奇岩が多数見られます |
世界ジオパークにも認定
そして、阿蘇を訪れた人に強い印象を残すのが、中央火口丘の斜面と外輪山の外側にどこまでも広がる緑の草原です。この草原は阿蘇に暮らす人びとの放牧・採草・野焼きなどの営みによって、千年以上の歴史をかけて造られ、維持されてきました。
雄大な阿蘇の風景は、人と自然の協働によって生まれたとも言えます。阿蘇山とその周辺は、特徴的な自然が貴重なものであるとして世界ジオパークに認定されています。
ジオパークとは、ジオ(地球、大地)において特別に重要で貴重な、あるいは美しい地形が多数点在する地域のことを言います。そして、世界ジオパークとは、ユネスコ(国連教育機関)によって認定されるもので、2023年1月時点で、日本では阿蘇のほかに洞爺湖有珠山・糸魚川・山陰海岸など9ヶ所が認定されています。
ジオパーク内には、阿蘇山の自然について知ることのできる展示や体験を行える施設が多数整備されています。ぜひ阿蘇山へ行って、生きている大地の鼓動と営みを感じてみましょう。
生きている火山の脅威と、そのエネルギーを活かした地熱発電事業。阿蘇の人びとは地球のダイナミックな営みの中で生きているのです。