エネルギー日本の火力発電を支える燃料「石炭」の今後

日本の火力発電を支える燃料「石炭」の今後

石炭産業衰退の象徴である長崎県の軍艦島(端島)が世界遺産になり、過去のものと思われている「石炭」ですが、製鉄の原料や火力発電の分野ではいまだにその優位性は失われていません。そればかりか、石炭の燃焼により発生する石炭灰は私たちの足元を支えています。

エネルギー資源としての石炭

エネルギー資源としての石炭

石炭は資源量が多く安価なエネルギー源ですが、環境負荷が高いという欠点を持っています。しかし、次世代高効率石炭火力発電システム「石炭ガス化複合発電(IGCC:Integrated coal Gasification Combined Cycle)」の開発により、この欠点は克服されようとしています。

石炭とは

石炭は、植物が堆積して地中に埋もれ、長い期間にわたって熱や圧力を受けて変質した植物化石です。国内消費量の99.3%(2015年度統計)を輸入に頼っている日本の石炭産業は第二次世界大戦前後が生産の最盛期であり、当時の輸入比率は約25%、生産量のピークは5730万トン(1940年)でした。

石炭は、石炭化度・用途によって以下のように分類されます。

石炭化度による分類

  • 泥炭:炭素の含有量が70%以下で、園芸用途に使われる。日本においては石炭に分類されていない
  • 褐炭:石炭化度が低く、水分が質量の半分以上を占める。発熱量が低く輸送コストがかかるため、鉱山周辺で消費されている
  • 瀝青炭:炭素の含有量が83%〜90%で、コークス原料に使われ、高価で取り引きされている
  • 無煙炭:煙の少ない石炭で、炭素の含有量は90%以上。家庭用練炭の原料として使われる。発熱量は高いものの着火性に劣る欠点がある

用途による分類

  • 原料炭:工業用に向いており、製鉄(コークス)の原料などになる
  • 一般炭:燃料用途に向いており、主に発電用燃料になる

木炭と石炭

石炭と同様に植物が炭化してできた燃料に木炭があります。木炭は植物を密閉状態で加熱して揮発成分を抜いて製造するため、化石燃料である石炭と違いその生成過程に長い時間を必要としません。

木炭はかつて家庭用燃料の代表でしたが、次第に電気・灯油・ガスが使用されるようになり、今では蒲焼きや焼き鳥などに「炭火焼き」の付加価値を付けるための燃料とされています。

石炭もかつては産業革命を牽引した燃料の主役でしたが、木炭同様に石油やガスにその座を奪われていきました。しかし、石油危機を契機として再び注目されるようになっていきます。

製鉄の還元剤としての石炭

従来は製鉄に必要な還元剤として木炭が使われていたことで森林枯渇が心配されていました。しかし、1784年に石炭を使用した製鉄法が開発されると、急激に木炭から石炭への置き替えが進みました。この製鉄原料としての石炭の優位性はいまだにほかの燃料に奪われていません。

エネルギー資源としての今後の課題

燃料として石油が使われはじめたことで石炭から石油への置き替えが進んでいきましたが、石油危機を背景に発電燃料・産業燃料においては石炭への回帰が起こります。世界エネルギー会議の調査結果(2007年)では約8475億トンの石炭の可採埋蔵量があるとされており、これは、生産量から計算すると133年分に相当します。

また、2020年ごろの実用化を目指して二酸化炭素回収貯留(CCS:Carbon dioxide Capture and Storage)の技術開発が進められているため、石炭の欠点である二酸化炭素排出量の多さの解決が期待されています。

2014年のエネルギー基本計画でも「次世代高効率石炭火力発電技術等の開発・実用化を推進する」とされており、世界初となった「空気吹きガス化炉」を使ったIGCCである勿来(なこそ)発電所をはじめとして、次世代高効率石炭火力発電システムの開発も進んでいます。

勿来発電所
福島県いわき市南部にある火力発電所

 

日本を支える火力発電

日本を支える火力発電

石油危機以降、発電用途の石炭の需要は右肩上がりの成長を続け、2015年度には日本の電気の31.6%が石炭で作られています(電気事業連合会 2016年発表)。

火力発電は負荷変動に合わせて発電量を調節しやすいため、自然エネルギーによる発電量の変動を吸収する役割を担っています。そのため、火力発電は自然エネルギーの利用促進に欠かせないエネルギーとなっており、現在でも発電エネルギーの中心的役割を果たしています。

火力発電の燃料

火力発電の燃料には、LNG・石炭・石油が使われています。2015年度のデータ(エネルギー白書2017)によると、他の発電方法も含めた全電源に対するそれぞれの割合は下記のようになっています。

  • LNG:44.0%
  • 石炭:31.6%
  • 石油:9.0%

それぞれの燃料の特徴

LNG

  • メリット :調達先が分散しているために供給が安定している。二酸化炭素の排出量も比較的少ない
  • デメリット:貯蔵・輸送が難しく、インフラ整備も必要なために価格が高い

石炭

  • メリット :調達先が分散しており資源量も豊富なため、価格が安い
  • デメリット:二酸化炭素の排出量が多く、環境負荷を抑えた設備への置き替えが求められている

石油

  • メリット :貯蔵が容易で、供給の調整がしやすい
  • デメリット:資源枯渇の懸念があり、価格が高い。中東諸国への依存度が高く、地域情勢の影響で価格の変動が大きい。環境負荷も高い
MEMO
シェールガスやシェールオイルが採掘可能になったことで、今後の価格低下が期待されている

火力発電による地球温暖化への影響

火力発電に使われている燃料のライフサイクル全体での二酸化炭素の発生量は

  • LNG:0.599kg/kWh
  • 石炭:0.943kg/kWh
  • 石油:0.738kg/kWh

となっており、これらはいずれも高い水準となっています。

燃料のライフサイクル
原料の採掘から設備の建設、輸送、精製、使用、保守などを一体とした概念

 

石炭の燃焼により発生する「石炭灰」とは

石炭の燃焼により発生する「石炭灰」とは

電気事業から排出される燃え殻やばいじんなどは、全産業廃棄物排出量の約2.5%を占めています。そして、その多くは石炭火力発電所から発生する石炭灰です。石炭灰には球形の微細粒子であるフライアッシュと砂に近いクリンカアッシュとがあり、これらはセメントやコンクリートの原料として土木・建築分野で活用されています。

石炭灰の利用方法

資源有効利用促進法により電気事業の石炭灰は指定副産物とされている(政令第7条)ため、その利用促進に努めることは排出事業者の義務となっています。

2003年以前は公有水面への石炭灰の埋め立てはリサイクルに該当しませんでしたが、2004年に、港湾計画に基づいて行われる公有水面への埋め立てに電気事業から排出される石炭灰を利用することがリサイクルに該当する、と見直しが行われます。

さらに2007年からは、都道府県の免許を受けて行われている公有水面への埋め立てに電気事業から排出される石炭灰を利用することもリサイクルに該当するようになりました。

こうして石炭灰は、高規格道路盛土、震災復興資材、港湾工事資材としてセメントやコンクリートへの混和材としての利用が広がっています。

石炭灰のリサイクル

石炭需要の増加とともに右肩上がりの増加を続けている石炭灰の有効利用は、ほとんどがセメントの材料で占められています。そして、使用されるケースも増えています。

  • 人工海底山脈プロジェクト
  • 河川底質改善技術
  • 舗装ブロック

がこれに該当します。しかし、用途がセメント分野へ集中しているため、セメントの生産量そのものが落ち込んできている状況では他の分野への拡大が課題となっています。

しかし、物性値の情報に乏しく安定しないために土木工事の設計ができないことや、石炭灰は産業廃棄物であるために取扱に免許やマニフェストの発行が必要とされることから、あまり導入が進んでいません。

 

産業の歴史とともにある石炭は、燃料としての主役の座を石油・LNGに譲った今でも、製鉄・発電分野で私たちを支え続けています。その副産物である石炭灰も9割以上がリサイクルされ、土木・建築分野に活用されることで文字どおり私たちを支えてくれています。