ライフイベント深刻な核家族化は日本にどのような影響を与えるか

深刻な核家族化は日本にどのような影響を与えるか

「核家族」の単語からは夫婦と一人あるいは二人の子どもによる少人数の家族が想像されますが、例えば7男2女11人の大家族であれ、夫婦と未婚の子どもによって構成されている場合もこの定義に当てはまります。急速に進む核家族化による問題を探りましょう。

核家族とは

核家族とは

保育や介護の問題解決に役立つと言われる脱核家族化ですが、そもそも「核家族」とはどのような家族なのでしょうか。

核家族の定義

家族は、家族法(民法第4編「親族」と第5編「相続」を合わせた用語)によって「全ての国民がいずれかの家に属するもの」と定められています。しかし、核家族については定義されていません。

しかし、総務省統計局が行っている国勢調査によると、核家族は

・夫婦のみの世帯
・夫婦と子どもから成る世帯
・男親と子どもから成る世帯
・女親と子どもから成る世帯

とされており、単世代または未婚の子を含む二世代により構成される世帯を指します。

日本の核家族の割合

一般世帯に占める割合が1920年代にはすでに54%に達していたとされる核家族は、1980年に60.3%とピークを迎え、その後も50%台後半を維持し続けています。

以下に2010年・2017年の国勢調査の結果から抽出した世帯の家族類型別世帯数を示します(数値は四捨五入のため、合計値と内訳の合計が一致しない場合がある)。

家族類型別世帯数の推移(単位:千世帯、下段(%)は一般世帯に対する割合)

1970198019902000200520102015
一般世帯※130297358244067046782490635184253332
100.0%100.0%100.0%100.0%100.0%100.0%100.0%
単独世帯61377105939012911144571678518418
20.3%19.8%23.1%27.6%29.5%32.4%34.6%
核家族※217186215942141827332283942920729754
56.7%60.3%59.5%58.4%57.9%56.4%55.9%
核家族以外6974712470636539621257655024
23.0%19.9%17.4%14.0%12.7%11.1%9.4%

※1…2010年・2015年は家族類型「不詳」を含む
※2…2010年から定義の変更あり(親族以外の単身者、例えば住み込み従業員がいる場合は核家族に含まれなくなった)

 

深刻な核家族化

深刻な核家族化

核家族数は増加しているものの、一般世帯に占める割合の推移からは、そこまで進行しているとは言えない実態が見えてきました。また、核家族よりも単独世帯の増加の方が深刻にも見えます。

では、核家族化に潜む問題が何かを探るために、核家族の内訳に着目してデータを見てみましょう。

核家族の内訳比率(単位:千世帯、下段(%)は核家族世帯に対する割合)

1970198019902000200520102015
全核家族※171862159424218
27332283942920729754
100.0%100.0%100.0%100.0%100.0%100.0%100.0%
夫婦のみ297244606294883596371024410718
17.3%20.7%26.0%32.3%33.9%35.1%36.0%
夫婦と未婚の子12471150811517214919146461444014288
72.6%69.8%62.6%54.6%51.6%49.4%48.0%
ひとり親と未婚の子1743205327533578411245234748
10.1%9.5%11.4%13.1%14.5%15.5%16.0%

※2010年から定義の変更あり

上表のとおり、核家族の内訳では「夫婦のみ」世帯と「ひとり親と未婚の子」世帯の割合が増加し、「夫婦と未婚の子」世帯の割合が減少しています。つまり、一般世帯に対する核家族の割合は一定を保っているものの、核家族内でさらに小さい家族への変化が起こっているのです。

また、同じ時期に行われた国民生活基礎調査では、どちらかが65歳以上による夫婦のみ世帯が7469千世帯となっています。これは夫婦のみ世帯全体の約7割を占めており、高齢世帯の孤立化という側面も見えてくるのです。

核家族化が進む原因

核家族(特に夫婦のみ世帯)が増加している原因について、地域格差・経済効率・文化的側面のそれぞれから見てみましょう。

地域格差

高度経済成長期に発生した経済的地域格差は、地方から労働力である若年層を都市部へと流出させます。

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その結果、地方で生活していた夫婦と未婚の子世帯を、地方に残された高齢者の夫婦と、大都会で暮らす未婚の子に分断させていきました。

経済効率

巨大資本による市場支配は、大都市に集中した人口を転勤という形で地方に再配置し、経済活動の広域化を図っていますが、転勤による移動は、都市部で生活する夫婦と未婚の子世帯から親と同居する跡取り世代を分離させ、高齢単独世帯と核家族を増加させています。

文化的側面

1980年代から日本に浸透しだした「DINKs(Double Income No Kids:共働きの夫婦のみ世帯)」の文化は、核家族割合のピークと重なっており、夫婦のみ世帯の増加の一因となりました。

そして、女性の社会進出による共働き世帯数の増加は2000年ごろに片働き世帯数を追い抜き、子育てに使う時間の減少から少子化に拍車をかけ、核家族を増加させる連鎖を生んでいます。

核家族化が進むとどうなるか

夫婦のみ世帯・単独世帯の増加を生んだ社会の変化は、大家族内部にいた非労働人口が担っていた子育てや介護といった地域コミュニティーを失わせ、核家族内の少ない人数でこれらを負担しなければならない状況を作り出しています。

しかも、ひとり親と未婚の子世帯の増加が表しているように、核家族自体の分裂も進行しており、負担しきれなくなった子育て・介護はヘルパーを雇うなどのコスト増加につながり、税金や公的年金による社会的扶養の拡大が必要になっています。

 

核家族の子育てにおける不安

核家族の子育てにおける不安

核家族の子育てにおいては、育児の行き詰まりに対する助言が得られにくい状況からくるストレスで、幼児虐待に走る例も散見されています。

核家族の子育てで苦労すること

核家族のさらなる分裂が進み、家計を支えるための就業に時間がとられ、かつ、預け先が見つからずに困っているひとり親と未婚の子世帯が増加しています。

また、親と同居している子どもが児童(18歳以下の子)なのは2割程度であることから、未婚化・晩婚化により、本来は結婚して独立するはずの成人した子が長期的に家庭内に留まっており、核家族の状態が長期にわたって維持されていることも分かります。

さらに、このようにして育てられた子どもは、結婚・独立しても親と同居していたときと同様に自分の収入を自分だけのために使う習慣から、共働きを望み、子育てに使う時間的・金銭的ゆとりがない、という傾向があるとの指摘も存在します。これが片親世帯であれば、なおさら子育ては厳しい状況となるのです。

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核家族の子育てにおける対策

核家族へ進む傾向は、家事労働の総量を減少させて女性の社会進出を可能にしている一方で、少ない人数で家事を回す必要から男性の育児・家事への参加、いわゆる「育メン」という文化を育んできました。

しかし、これは夫婦と未婚の子世帯では可能ですが、ひとり親と未婚の子世帯では適用できません。こうした場合には、親世帯と子世帯がお互いサポートしあえるよう近い位置で暮らす「近居」という選択肢もあります。

ただし、育メン・近居ともに新しい文化であり、取り組める核家族もそれほど多いとは言えません。

そのため、やはり行政による支援が必要とされており、喪失した地域コミュニティーの代替え、あるいは回復に努めていくために「地域子ども・子育て支援事業」を立ち上げ、相談の場を失った核家族世帯に新しい場を提供していくことが画策されています。

地域子育て支援拠点事業とは

子育てに苦労している親を支援するために行政が行っている施策のうち、市町村が行わなければならない事業の一つが「子ども・子育て支援法(第59条)」により定められた「地域子育て支援拠点事業」です。

地域子育て支援拠点は、子育て中の親子が集まって交流を持って情報交換をするための場で、子育ての専門家である保育士がいる保育園で利用されることが多く、ほかにもNPOや児童館・中高生ボランティアなどの協力を得て多様な取り組みも行われ、地域の子育て力向上に役立てられています。

 

複合家族から核家族へ、そして単独世帯へとその規模が縮小していく家族の形は、子育てや介護といった従来は家族内にいた非労働人口が担っていた役割を育メン・近居という新しい文化で補うことを必要としていますが、十分な対策とはなっていません。

しかし、行政の力を借りて社会経済に組み込まれた新しい子育てコミュニティーが誕生すれば、家族より大きな集合体による子育て・介護といった未来への第一歩となるでしょう。