観光と農業をつなぐ「観光農園」は第一次産業を救えるか

観光と農業をつなぐ「観光農園」は第一次産業を救えるか
一年を通して作物を作り出荷する。食卓の根幹とも言うべき第一次産業である農業の形態が、時代の流れとともにそのあり方を変化させ始めています。「観光農園」と呼ばれる新たな農業スタイルとはどのようなものなのか、内容や特徴について詳しく解説していきます。

日本の農業を取り巻く現状

日本の農業を取り巻く現状
(写真:photoAC)

減少を続ける食料自給率

食料自給率とは、国内における食料の消費が国産物でどのくらい補えているのか、これをパーセンテージで表したものです。その種類は大きく分けて二種類あり、消費された食料をそのまま重量で表したものが品目別自給率、消費されたカロリーを金額で換算したものが総合食料自給率と呼ばれています。

2016年度の農林水産省の発表によると、日本の食料自給率はカロリーベースで38%となっており、その数値は年々減少傾向にあります。

その理由はさまざまですが、主な原因としては以下のような状況が挙げられます。

・日本人の食の好みが変わり外国からの輸入に頼らざるを得ない
・景気の低迷により価格の安い輸入品が売れている
・少子高齢化にともない農家が廃業するケースが増えた

このような状況から見えてくるのは、食料の生産と消費のバランスが崩れている日本の姿です。大量の輸入品で食料がまかなわれ、それに押されて作物が売れなくなった農林水産業者が衰退。日本の食料自給率が低下し続けているという状況に不安を抱える国民も少なくありません。

・積極的に国産品を購入する
・地域の生産物をその地域で消費する地産地消の推進
・農林水産業の所得向上

消費者が日ごろからこのような点を意識し、国産の食物を積極的に消費していくことが、食料自給率を向上させるうえで大切なポイントとなっています。

【関連記事:低下を続ける食料自給率の向上のために取り組むべき対策

農家人口を増やすためにはどうすべきか

食料自給率を維持向上させるために必要なのは、安定した食料生産と供給です。しかし、その基礎となる生産に携わる農家人口は年々減少していき、2016年の段階では200万人を下回る数値となっています。

・農家の高齢化による休耕田の増加や生産の減少
・若者の農業離れ
・所得の低さや経済的困窮

こうした現状をふまえ、国は農業従事者やそれを目指す若者を対象とした支援策を講じているのですが、実際に農業を志す人は以下のような問題に直面しています。

・思うような所得が得られない
・技術が未熟で生産力が上がらない
・農業を続けていく資金が不足している
・農地や労働力が不足している
・栽培や収穫の段取りが上手くいかない
・販売ルートが確保できない

自然と付き合いながら各家庭の規模に合わせて営まれてきたこれまでの農業スタイルでは、時代の流れにより変化する販売ルートや生産規模に追いつけず、結果として農業の難しさや厳しさに挫折するといったケースも少なくありません。

多くの人に興味を持ってもらい、農作物の生産だけにとどまらない魅力的な農業経営の姿を確立していくことは、農家人口を増やすうえでも重要な課題となっています。

 

農業の新しいカタチ「観光農園」

農業の新しいカタチ「観光農園」
(写真:photoAC)

日本の農業を衰退させないための方法として近年注目を集めている「観光農園」とは、一体どのようなものなのでしょうか。

観光農園の状況

観光農園とは、訪れる人びとが農作物の収穫を体験したり、その土地で採れた作物や加工品を購入したり、といった観光ができる農園のことを指します。

農作物を出荷するだけではなく、作物ができる地域そのものを観光化し、農業体験を一つのエンターテイメントとして提供する観光農園は、これからの農業の新しいスタイルとして全国的に急速な広がりを見せています。

・季節に合わせた果物や野菜の収穫体験
・旬の素材を生かした料理を提供するレストランの経営
・収穫した作物を加工する工場の見学と加工品の販売
・中間マージンのない農場直営の販売所
・農園以外の観光地との共同企画によるイベントの開催

これまで作物を出荷した段階で仕事が終わっていた農業が、多角的な経営で農作物の栽培以外にも収入を得ることができるという点が、観光農園の大きな特徴です。

個人農園はもちろんですが、小さな農家でも地域で集まると広大な農地を確保できることから、観光農園での集客率の向上と農業衰退を食い止める施策として、各地方自治体も大きな期待を寄せています。

【関連記事:農業の6次産業化は日本の農家を救えるか

観光農園の課題や問題点

新しい農業の運営方法として全国的に注目されている観光農園ですが、運営を継続させていくためにはさまざまな課題や問題点をクリアにしていかなければなりません。

・観光農園の来園者を増やすための継続的な工夫
・運営するうえで必要な労働力の確保
・定期的な加工品の開発と販売ルートの開拓
・農作物の直売所
・観光農園のPR

一定数の来園者を確保しつつ観光面と農業面それぞれの経営をバランス良く行わなければならない観光農園は、これまでの農業と違い、多方面での運営計画が必須となります。

農業の専門知識だけではなく経営のノウハウも必要とされる観光農園。新しい農業を定着させるためのチャレンジが続いています。

 

おすすめの観光農園「観光農園アグリの郷」

おすすめの観光農園「観光農園アグリの郷」
(写真:photoAC)

1999年に栃木県栃木市で開園した「観光農園アグリの郷」。農業・観光・販売・体験が巧みに組み合わされた運営は、毎年多くの観光客が訪れる栃木県の人気スポットです。

アグリの郷でいちご狩り

いちごの生産地として全国でも有名な栃木市。元々は農事組合法人アグリテック栃木として土地利用型農業運営を行っていたところ、いちごの生産が盛んであることに着目した栃木市観光協会とのタイアップにより、いちご狩りが楽しめる観光農園としてスタートしたのがアグリの郷です。

「とちひめ」や「とちおとめ」といった栃木を代表するいちごを自分で収穫しながら楽しめるいちご狩りは大変な人気で、毎年2月から5月にかけて数多くの観光客が訪れています。

いちご狩りのない冬場には、隣接するビニールハウスで収穫されたばかりのいちごを贅沢に使用したクリスマスケーキ作り体験も行われ、一年を通していちごを楽しめる工夫がなされています。

農産物直売所もおすすめ

アグリの郷で有名なのはいちご狩りだけではありません。アグリの郷が経営する農産物直売所では、栃木産で安心・安全な野菜や農産物の加工品を販売。常時30種類以上の品揃えで宅配も行っていることから、県外からのリピーターも増えています。

新鮮な農産物やおいしい加工品を手軽に安く手に入れることができる直売所は、観光客のみならず地元の人にも好評で、「地産地消」の理想的な姿として全国から注目されています。

直売所で販売されている加工品は、全てアグリの郷の農産物加工所で作られたもの。母体であるアグリテック栃木によって栽培・収穫された大豆・コシヒカリを使用した手作りみそや、いちごを使ったイチゴジャムなどの加工品を製造するほか、みそやジャム・ロールケーキの体験学習の募集も行っており、「生産から口に入るまで」を学べる工夫がされています。

 

店頭に並ぶ農産物を見るだけでは知ることができない、農林水産業という第一次産業の苦悩と問題点。観光農園という新しい農業の形態の誕生は、農作物を産み出す農家だけにとどまらず、「命をいただく」という心をもう一度現代社会に蘇らせるために必要な、大切な契機と言えるでしょう。

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