日本での減少が続く酪農の現状と課題

日本での減少が続く酪農の現状と課題
酪農の現場は、搾乳・牛舎清掃などの重労働の毎日で、次世代の担い手もいないために高齢化と労働力不足が発生し、耕作放棄地も増え続けています。しかし、「家畜ふん尿」が飼料やエネルギーの元になることを再認識した酪農家は、ICTとロボット技術の導入により多角経営に挑むことで「地域の活力創造」を進めています。

酪農の主な仕事内容

酪農の主な仕事内容
(写真:photoAC)

重労働のイメージが強い酪農ですが、軽作業も多くあります。この作業の人手をまかなうために「酪農ヘルパー」が活用されていますが、同じ作業を続けることに苦痛を感じて辞めてしまうケースも多く、酪農家の数は減少を続けています。

酪農と畜産の違い

家畜を飼い育てる農業が畜産ですが、このうち乳や乳製品の生産を目的とするものが酪農です。「酪」は古代に年貢として納められていた発酵乳で、ヨーグルトのようなものだったとされています。

酪農

酪農は、東北、北海道、長野県や栃木県の高地で盛んに行われています。乳牛は人間より体温が高いため暑さに弱く、寒冷な高緯度地域や高地が飼育に適しているからです。

また、酪農であっても乳の出なくなった乳牛や雄の子牛を肉用に売ることがあります。

なお、牛乳は鮮度が重要であるために消費地の近くで飼育されることもありますが、その場合は温度管理がされている室内で飼育されます。

畜産

畜産は、比較的暖かい熊本県、宮崎県、鹿児島県などの、いずれもほかの農業には適さない場所で行われています。

仕事内容

酪農家の朝は、午前5時ごろの餌やりから始まります。餌は牧草に穀物や栄養素を混ぜたもので、各農家が牛の健康を考えて工夫を凝らしています。

次は、朝の搾乳です。生乳は鮮度管理だけでなく衛生面の管理も必要であるため、作業前には必ず牛の乳房を清潔な暖かいタオルで拭き、乳頭を消毒します。搾乳は「ミルカー」という搾乳用の機械を使って行います。

搾乳の後は、牛舎の掃除を行います。床を綺麗にすることで牛が気持ちよく休めるようになり、反芻(はんすう)の回数が増えて成長が促進され、病気にもかかりにくくなるのです。

牛が休んでいる間は、牧場の見回りをして怪我や病気の早期発見に努めます。また、餌用の作物を自前で育てている場合は、餌用の草刈り、乾燥、保存なども行います。このとき、トラクターや搾乳機などの機械の手入れも同時に行います。

昼の搾乳は、行う酪農家とそうではない酪農家があります。

夕方には次の日の朝に与える餌を用意し、搾乳を終えるともう一度牛舎の清掃を行い、午後9時ごろに一日の作業が終わります。出産が近い牛がいる場合には夜の見回りも欠かせません。

酪農家になるためには

大学や研修施設で基礎を学んだ後、酪農家のもとで2年以上の研修を経て酪農ヘルパーとなり、その後独立するのが一般的です。

また、トラクターや牽引車の免許があると作業に便利です。さらに「家畜人工授精師」の資格を持っていると乳牛繁殖に役立ちますが、自ら飼育している家畜に対して行う場合は必要ありません。

 

日本の酪農について

日本の酪農について
(写真:photoAC)

北海道を除くと小規模な農場が多く収益性が悪い日本の酪農ですが、地域貢献を考えて多角化することで収益性が改善されるケースが増えています。

酪農の現状

2015年の畜産統計によると、

・乳用牛の飼育戸数:17,700戸(前年比:4.8%減少)
・飼育頭数:1,371,000頭(前年比:1.7%減少)
・1戸当たりの飼育頭数:77.5頭(前年比:3.3%増加)

となっており、特に飼育戸数についてはピーク時の1963年の418,000戸から約24分の1になってしまったことになります。

生乳の生産量は733万トンで前年に比べて2.4%の減少となっていますが、生産量不足のため、価格は4.7%上昇しています。

環境保全に貢献している酪農

全国に約42万ヘクタールある耕作放棄地(2015年「荒廃農地の発生・解消状況に関する調査」)は、農業収益の悪化により減少する農業人口が原因で、年々増え続けています。耕作放棄地の増加は傾斜地などの収益性の低い農地で顕著になっており、特に山間部の農業従事者の高齢化・労働力不足に拍車をかけています。

このような土地の再生利用法として、農林水産省が立ち上げた「地域づくり放牧推進事業」があります。トラクターなどが利用できない傾斜20度以上の急傾斜地に牛を放牧することで、蹄による土壌のかくはんと肥料の提供を同時に行うものです。酪農は荒廃した土地の再生に適した農業と期待されています。

新たな課題「畜産環境問題」とは

産業廃棄物の種類別上位3品目(2015年度実績値)は以下のようになっており、

1.汚泥:16417万トン(42.7%)
2.動物のふん尿:8263万トン(21.5%)
3.がれき類:6323万トン(16.4%)

この内の「動物のふん尿」の不適正処理が「畜産環境問題」と呼ばれるものです。

家畜のふん尿からできた堆肥は畜産農業に必要な飼料畑の肥料となりますが、効率を追求して大規模化された畜産業では全てを再利用することができず、野積みのまま放置されることが多くなります。このことは厳密には廃棄物処理法に違反しているのですが、不適正処理と堆肥化とを明確に区別することは難しく、取り締まられていません。

そこで、堆肥化の途中のものを「家畜排せつ物」と定義し、その管理方法を法律で規制するため、1999年に「家畜排せつ物法(家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律)」が施行されました。この法律では、家畜排せつ物が土壌に浸透しないよう処理・保管施設を作り、処理量を記録するよう定められています。

 

酪農・畜産における地域活性

酪農・畜産における地域活性
(写真:photoAC)

農林水産省は2013年に「地域の活力創造本部」を設置し、「地域の活力創造プラン」を実行しています。このプランでは「強い農林水産業」「美しい活力ある農山漁村」を作り上げることを目的として、以下の4つの取り組みをしています。

・需要フロンティアの拡大
・バリューチェーンの構築
・生産現場の強化
・多面的機能の維持・発揮

特に酪農・畜産は、家畜排せつ物が耕作地の肥料やバイオ燃料の原料であることから、「畜産クラスター」という地域ぐるみで高収入を目指す構想の中心産業と捉えられています。

需要フロンティアの拡大

需要フロンティアの拡大においては、「和食」のユネスコ無形文化遺産への登録によって海外需要が高まっている日本の「食文化・食産業」の輸出強化と国内での「地産地消」マーケットの構築(学校給食の国産品使用率80%)を目指しています。

生産現場の強化

生産現場の強化においては、ロボット技術の導入による省力化とICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)の導入による高品質化を目指しています。

ロボット技術は、GPSを活用した農機具の自動走行や重労働用のアシストスーツの着用などによる省力化に役立ち、ICT技術は、各種センサーの導入により作物や家畜の状態把握を迅速にすることやノウハウのデータベース構築により知識を共有することを可能にします。

香川県の広野牧場に見る地域活性化

1979年に20頭の牛から始まった広野牧場は、今後の牧場経営を常に考えています。農業者の地位の向上を目指して地域社会への貢献として始めた「体験事業」では、乳製品加工、農作物収穫からパン・うどんづくり、木工などを提供。安定的な経営を目指して2001年に法人化したことで、地域の雇用も創出しています。

補助事業を活用して「ふん尿処理施設」を導入したことをきっかけに大規模化に取りかかり、頭数・搾乳量が増えて利益も増加。その結果、2005年には300頭近い大規模農場にまで成長しました。

2008年には地元のイチゴ農家とコラボして観光農園「森のいちご」をオープン。さらに、2014年には「農産漁村6次産業化対策事業補助金」を活用してジェラート店をオープンしています。

 

酪農家の経営改善には大規模化が有効ですが、国内では北海道を除いて困難な状況となっています。そこで、大規模化に変わる新しい方策として考えられたのが「6次産業化」と呼ばれる多角化、そして、多角化された酪農を支える技術がICTとロボットです。

産業廃棄物である家畜排せつ物が肥料・バイオ燃料として蘇ったとき、酪農は農村再生の中心産業として「地域の活力創造」を果たすことでしょう。

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