歴史ある日本の伝統工芸備前焼の特徴は?|良さと魅力・代表的な種類も紹介

備前焼とはどんなもの?特徴や歴史を幅広く解説

土の温かみと焼き味を楽しめる素朴な備前焼は、使うほどに手に馴染んで趣が出てくるのが特徴的な焼き物です。今回は、ほかにはない自然美と実用性を合わせ持つ備前焼の良さや魅力、さらには代表的な種類・窯変についても紹介していきます。

備前焼の特徴

備前焼の特徴

絵付けはせず釉薬も使わない

備前焼は岡山県備前市で生産されており、日本六古窯の一つで、土の持ち味を楽しめる素朴な焼き物。絵付けをせず釉薬も使わずにそのまま焼かれることが最大の特徴です。一つずつ成形されているため全て形や焼き味が異なる1点もの。備前市伊部地区が主な生産地であることから「伊部焼(いんべやき)」と呼ばれることもあります。

1200度以上の高温で10日前後かけて焼き締められた備前焼は緻密で強度が高く、表面には繊細な凹凸やわずかな通気性があり、保温性に優れています。こうした特性により、料理や飲料のおいしさを引き立たせる食器や、草花を長持ちさせる花器として広く愛用されてきました。

希少な粘土質の「干寄」を使用

備前市の伊部周辺で採れる粘土質の「干寄(ひよせ)」という良質で希少な土を使用します。陶土のなかでは鉄分を多く含み、きめの細かさと強い粘り、低い耐火度が特徴です。

この干寄は、流紋岩という岩石でできた山から流れ出した山土が堆積したもの、つまり「岩石の風化物」と言い換えることもできます。岩石は風化の仕方によっても粒度や金属の含有量など土の性質に大きな差が生まれますが、干寄は高い強度を持つ陶器へと生まれ変わります。もちろん、同じ備前周辺でも採掘場所ごとに違いがあり、これが作家や作品の個性にもなり得ます。

採掘した干寄は少なくとも一年以上は野積みで風雨にさらすことで、土のなかに含まれる不純物が腐って土に馴染み、鉄分が減少します。こうして処理された干寄と黒土を混ぜたものが備前焼の陶土となります。

ポイント
釉薬を使わない備前焼において、土づくりの工程は大切なポイント。その重要さは「一土、二焼、三細工」と呼ばれるほどで、一般的にろくろや焼き作業のイメージが強い陶芸家ですが、実際は土づくりに多くの時間をかけています。

成形・装飾

乾燥や粉砕、寝かし、土もみ(菊練り)といった処理を施した陶土を手びねりや轆轤(ろくろ)で成形します。成形後にへらなどを使って装飾をすることもありますが、基本的には

  • 窯内での配置や藁などの異素材
  • 燃料である松割木(乾燥した赤松)の灰などの付着
  • 炎の調整

によって、下記に紹介するバリエーション豊かな種類・窯変が生まれます。

粉砕でない土作りのケース
作品によっては干寄を粉砕せず、小石を取り除いた原土をそのまま使用するケースもあります。

備前焼の種類・窯変

備前焼の種類・窯変
多種多様な色合いや模様のある備前焼ですが、代表的な種類・窯変を紹介します。

胡麻(ごま)

焼成中に松割木の灰が作品の表面に降りかかることで付着し、これが高温でガラス化したものがふりかけた胡麻の粒に見えることから「胡麻」と呼ばれます。たくさんの灰が付着して溶けて流れたものは「玉垂れ(たまだれ)」や「流れ胡麻」と呼ばれます。色はさまざまで、白や黄、金、青、黒など。焼成前に灰を表面に付けて焼くことで胡麻を出すこともできます。

桟切り(さんぎり)

窯のなかで作品に炎が当たる部分は赤っぽくなり、炎が当たらない部分は暗褐色になります。そして、その境目が灰青色になっているものが「桟切り」です。

昔は窯のなかを仕切るための桟(さん)付近に灰や炭が溜まり、そこに作品が部分的に埋もれることで炎の当たりにムラが生じ、こうした複雑な焼き色をもつ作品ができたことから名付けられました。大量の木炭を窯焚きの終了間際に投入する「炭桟切り」という方法もあります。

牡丹餅(ぼたもち)

主に平らな作品(皿や鉢など)の上に丸くした粘土やお猪口などの小さな作品を置いて焼くことで、その部分に炎が当たらず丸い模様ができます。それがまるで「ぼた餅」を乗せたように見えることから「牡丹餅」と呼ばれます。

緋襷(ひだすき)

窯のなかで作品同士がくっつかないように間に入れられたり巻かれたりした藁が粘土に含まれる鉄分と化学反応を起こし、緋色の線が「たすき」状に出たことから「緋襷」と呼ばれます。淡いベージュ色や白っぽい薄茶色の素地に朱や茶色の模様が映えた、若者からも人気の高い焼き色です。

青備前(あおびぜん)

酸素が少なく炎が直接当たらない燻し(いぶし)の状態で焼かれた作品は、全体が青灰色から濃青色になるため「青備前」と呼ばれます。窯のなかで還元焼成されるという限られた条件でしか現れないので、思うように発色させることが難しい大変貴重な焼き色です。

伏せ焼(ふせやき)

作品にほかの作品をかぶせて焼くことで一つの作品の上部と下部で焼き色が異なるものを「伏せ焼」と呼び、蕪徳利や壷などでよく見られます。炎が当たる部分は褐色などの濃い色、当たらない部分は薄茶色などの淡い色になります。

これらの窯変は必ずしも独立して施されるわけではなく、いくつかを組み合わせたり技術を応用することで、備前焼の芸術性が高められています。

 

備前焼の歴史

備前焼の歴史

人間国宝の認定によって低迷から復活

朝鮮半島より伝わった「須恵器(すえき)」を主に特権階級用として古墳時代から生産していた人々が、備前で日用の器や瓦などを生産し始めたのが備前焼のルーツです。鎌倉時代には次第に変化や発展を遂げながら赤褐色の焼き色が見られるようになるため、このころに備前焼の原型ができていたことが分かります。

これまでの長い歴史においては、白磁や施釉(釉薬をかけた)陶器に押され、備前焼の需要が低迷する時代もありました。こうした不遇の時代にあっても、携わる人々が多大な努力を重ねてきたことが功を奏し、備前焼が再び注目を集めるようになりました。

その大きなきっかけとなったのは、昭和31年に陶芸家の金重陶陽が重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定されたことです。これが励みとなって多くの人々がさらに研鑽を積んだことで、備前焼の価値は揺るぎないものとなりました。

日本六古窯の一つ

日本六古窯の一つ

備前焼は、日本六古窯(にほんろっこよう)の一つにもなっています。日本六古窯とは、平安時代の中~末期から日本で生産が続いてきた6つの窯場の総称です。

  • 信楽(滋賀県甲賀市信楽町)
  • 備前(岡山県備前市)
  • 丹波(兵庫県篠山市今田町)
  • 越前(福井県丹生郡越前町)
  • 瀬戸(愛知県瀬戸市)
  • 常滑(愛知県常滑市)
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がこれにあたります。釉薬をかける施釉陶器は瀬戸のみで、ほかは全て釉薬を使用しない無釉焼締になります。
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備前焼祭り

備前焼祭り

毎年開催の大人気陶器市

毎年10月の第3土曜日および日曜日に伊部駅(JR赤穂線)周辺で開催される備前焼祭りは、備前焼を買い求める観光客でにぎわう一大イベントです。窯元が屋台やテントを出して販売する陶器市では、色や模様、形、価格帯がさまざまな備前焼を通常より安く買うことができます。掘り出し物を探してみたり、近辺にある陶芸家のお店やギャラリーに立ち寄ってみるのも良いですね。

お祭り期間中は、伊部駅舎の上に建つ備前焼伝統産業会館で「ろくろチャレンジ」や陶器の展示会が催されています。会館前では福袋が販売されており、人間国宝や文化財作家の作品が入っていることも。ほかにも「ろくろ実演」や抽選会があるなど、イベントが盛りだくさんで一日中楽しむことができそうです。

屋台のグルメ巡りも魅力

また、近隣には備前焼の狛犬や参道の敷石、塀、屋根瓦で有名な天津神社があり、こちらも必見。屋台が並んだ会場もあり、蒜山ジャージーソフトクリームや備前バーガー、B-1グランプリで受賞経歴のあるホルモンうどんなど地元グルメを味わえます。

なお、会場周辺には臨時駐車場が複数用意されていますが、多くの来場者が訪れるために早い時間で満車となりますので、公共交通機関の利用をおすすめします(当日は岡山駅と伊部駅間で臨時列車が運行されます)。

 

素朴でありながらも土の魅力が最大限に引き出された備前焼は、歴史ある高度な技法と創意工夫によって進化し継承されてきました。その優れた特性で実用的なことはもちろん、自然な美しさのある色合いや手にしたときの土の風合いにも心が和み、古くから生活のなかで愛用されてきたことが頷けます。