環境人体に影響を与えるアスベストの対策と処理方法

人体に影響を与えるアスベストの対策と処理方法

「アスベスト(石綿)」は、織物にすることができ耐熱性にも優れていることから、広く建材などに利用されています。しかし、その利便性は健康被害と背中合わせであったことが分かり、日本ではすでに使用・製造が禁止されています。ですが、すでに社会に拡散してしまったアスベストをどう回収・処理していくのかという課題は残されたままです。

アスベストとは

アスベストとは

アスベスト(石綿)は天然の鉱物繊維です。太さは約0.02~0.35マイクロメートル(髪の毛の5000分の1)で中空管状となっており、「丈夫で切れにくい」「熱に強い」「酸やアルカリの薬品に強い」「電気を通さない」などの優れた特性を持っています。

しかし、その丈夫で変化しにくい特性は、作業従事者がアスベストを吸い込んで肺に刺さると、15~40年後にはじん肺、肺がん、中皮腫などを引き起こす原因にもなってしまうのです。

アスベストの種類

アスベストには、網状で綿のように柔らかい「蛇紋石(じゃもんせき)系」と、針状の尖った「角閃石(かくせんせき)系」があります。

角閃石系は蛇紋石系より毒性が強く、1%を超える含有量の製品は1995年から国内での使用と製造が禁止されています。また、蛇紋石系は遅れて2004年に使用が禁止されました。

なお、アスベストの種類は下記のとおりとなっています。

  • 蛇紋石系:白石綿
  • 角閃石系:茶石綿・青石綿・直閃石綿・透閃石綿・陽起石綿

多く使用されていた背景

古くはミイラを包む布として使われていたアスベストですが、その燃えない繊維という特異な性質から万能な素材として役立てられてきました。さらに、国内で採取可能なために工業的利用価値が高く、耐火材(およそ500度までは安定)、断熱材、磨耗防止材料、シール材などの用途で1970年代の高度経済成長をきっかけに広く普及しました。これは、1960年代に石綿と悪性中皮腫の関係が疑われはじめた後のことです。

アスベスト製品の約9割は建築物材料として使用されていましたが、自動車部品や電気製品などにも使用され、家庭に普及しています。

経済産業省の調査によると、アスベストを含有している家庭用品は185社774製品(トースター、電気コンロ、アイロン、こたつ、ストーブ、ガスコンロなど:2014年12月時点)にのぼります。通常の使用において飛散の可能性があるのはそのうちの6製品ですが、これらの製品は1960年代に製造を終了しています。

アスベストが人体に与える影響

アスベストは微細で見えにくいため、知らないうちに吸引している危険性があります。そして、一度体内に取り込まれてしまうと、丈夫で変化しにくいという特性によって15年から20年の潜伏期間を経て主に以下の症状を発生させます。

アスベスト肺

  • アスベスト粉じんを10年以上吸うと発生する肺繊維症
  • 息切れ・咳・痰(たん)・胸の痛みがある
  • 3つめの文

肺がん

  • アスベスト繊維が胚細胞を刺激してがんが発生する
  • 潜伏期間は15年~40年
  • 診断・治療は通常のがんと同じ

中皮腫

  • 肺を取り囲む胸膜、腹部臓器を取り囲む腹膜にできる悪性腫瘍
  • 潜伏期間は20年~50年
  • 手術、抗がん剤、放射線治療が行われる

石綿胸膜炎

  • アスベストによる胸膜炎、胸膜内に浸出液が溜まる
  • 潜伏期間は10年以内または30年~40年
  • 呼吸困難を引き起こす

びまん性胸膜肥厚

  • アスベストによる胸膜炎が広範囲に癒着を起こし、固くなった状態
  • 呼吸困難を引き起こす

 

アスベストのレベル

アスベストのレベル

アスベストは、その発じん性によって3つのレベルに分類されています。

発じん性
粉じんの発生率。建材に含まれるアスベストが解体時に飛散するリスク(飛散性)

レベル1

  • 吹き付けられたアスベスト
  • 耐火建築物の梁や柱、エレベーター周り、ビルの機械室やボイラー室の天井・壁、立体駐車場や体育館などの天井・壁などに使用
  • 解体や除去を行うと大量の粉じんが発生する

レベル2

  • シート状に加工されたアスベスト
  • ボイラー本体・配管・空調ダクトの保温材、建築物の柱・梁・壁の耐火被覆材、屋根用折板裏断熱材、煙突用断熱材として使用
  • レベル1より低いが、解体すると飛散する可能性がある

レベル3

  • 成形板などの石綿含有建材
  • 建築物の屋根材や外壁材、建築物の天井・壁・床などに内装材として使われる石綿含有成形板、ビニール床タイルなどに使用

飛散性と非飛散性についての区分

「廃掃法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)」の施行令では、特別管理産業廃棄物の対象として飛散性のあるアスベストが指定されています。

飛散性アスベスト

  • 石綿を吹き付けられた建材または石綿を含む保温材など、大気中に飛散する恐れのあるもの
  • 溶融により無害化してから埋め立てによる最終処分を行う

非飛散性アスベスト

  • セメントなどとアスベストが一体成形され、削ったり壊したりしなければ飛散の恐れがないもの
  • 固化してから埋め立てによる最終処分を行う

 

アスベスト廃棄物の適正な処理・除去方法

アスベスト廃棄物の適正な処理・除去方法

特別管理産業廃棄物として規制の対象に

「アスベスト廃棄物」は廃掃法に定められた「廃石綿等」のことを指し、「廃石綿及び石綿が含まれ、若しくは付着している産業廃棄物のうち、飛散するおそれがあるもの」(環境省「廃棄物処理法における廃石綿等の扱い」)となります。

廃石綿等は、「廃水銀等」や「廃PCB等」とともに特別管理産業廃棄物として通常の産業廃棄物よりも厳しい規制の対象になっています。

また、アスベストを含むもの全てが特別管理産業廃棄物ではなく、

  • 石綿スレートなどの外装材や床タイルなど飛散の可能性の低い材料のうち、石綿含有率が重量の0.1%を超えるものは「石綿含有産業廃棄物」
  • 日曜大工などで使用した材料のうち、石綿含有率が重量の0.1%を超えるものは「石綿含有一般廃棄物」

となります。重量の0.1%以下の含有率のものはアスベストとしての規制は受けません。

収集・運搬、中間処理、埋立処分

アスベストの排出にあたっては、廃掃法の施行令によって処理基準が細かく規定されています。2006年10月の施行令改正により、収集・運搬、処分等の処理基準が強化されました。具体的には下記が義務付けられています。

  • 排出者はアスベスト廃棄物であることを明示して、許可を受けた処理業者に委託する
  • 運搬されるまでの間、飛散防止の処置をしたうえで密封して保管する
  • 運搬車両の荷台には覆いをかける

その後、2010年12月の施行令改正により、下記のとおり埋立処分基準が強化されました。

  • 飛散を防止するための構造をした処分場に埋め立てる
  • 埋立後は速やかにアスベスト以外の廃棄物または土砂で覆う

 

建築物解体時のアスベスト問題

建築物解体時のアスベスト問題

アスベストを使用した建築物の解体工事やアスベスト除去工事などのアスベストが飛散する作業は、大気汚染防止法に定められる「特定粉じん排出等作業」にあたり、同法律による作業基準を守らなければなりません。

アスベストを飛散させないために

アスベストを飛散させないためには、作業前後の養生として

  • 薬液を塗布する「封じ込め工法」
  • 板で密閉する「囲い込み工法」
  • 散水

が有効かつ実施されています。また、大気汚染防止法の作業基準ではこれらに加えて、

  • 作業場を隔離する
  • 作業場の出入口には前室を設置して負圧(大気圧より低い圧力)に保つ(局所的な作業の場合は、その箇所を袋状の用具で密封しても良い)
  • 作業前日までに集じん・排気装置を設置する
  • 正常に動作することを確認する
  • 作業中は集じん・排気装置の排気口で粉じんを測定する

ことも要求されています。

アスベスト飛散防止対策の強化

地震の被災などで人が立ち入ることが困難になった建築物等を解体する場合のように、通常のアスベスト飛散防止対策が適用できないケースも多数存在します。

このような場合には通常とは異なる工法を取ることになりますが、その選択にあたっては、一般財団法人日本建築センター・一般財団法人ベターリビングで建築分野の新たな技術について優位性を証明している「建設技術審査証明事業」の登録データから、アスベストの除去・封じ込め工法に関する新技術を利用すると良いでしょう。

 

健康被害が発生することが分かり、使用・製造が禁止されたアスベストですが、すでに社会全体に広まってしまったアスベストの回収・無害化には長い時間がかかります。このような事例を繰り返さないためには、有害物質が社会に広がる前にストップする仕組みが必要です。

そして、それにはPCB問題の発生を機に1973年に制定された「化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)」の制度を利用していくことが有効です。