自然6次産業化のメリット・デメリット|失敗事例もビジネスモデルのヒント

6次産業化のメリット・デメリット|失敗事例もビジネスモデルのヒント

日本の農業人口や食料自給率は減少・あるいは停滞していますが、活性化に向けた取り組みとして注目を集めているのが6次産業化です。そこで今回は、6次産業化のメリットやデメリット、さらには失敗事例も紹介しながら、成功に向けたビジネスモデルのヒントを提供したいと思います。

6次産業化とは

6次産業化とは

農家の減少

日本の農業を支える農家は減少の一途をたどっています。2000年に全国で312万戸あった農家は2020年に174.7万戸まで減少し、2015年(215.5万戸)からの5年間だけを見ても約80%に急落しています。このうち、農産物の販売金額が50万円以上の販売農家は2000年に233.7万戸でしたが、2020年には102.8万戸と半数以下に減っています。

農家がこれほどまでに減っている原因は、とりもなおさず農家を取り巻く環境の厳しさにあります。海外から輸入される安価な農産物のために農産物の価格が下落し、農家の収入が減っています。また、農業の担い手の多くは高齢者のため、後継者などの担い手がいないことにより農業をやめる農家も多いのです。

農家の減少とそれにともなう生産力の低下は、日本の食料自給率にも表れています。カロリーベースで見ると、1975年に54%だったのが2021年度には38%まで低下しています。

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農業にも創意工夫を

その一方で、生産拡大や新たな領域にも進出しようという意欲的な農業者も増えています。農業者として従来のように農作物を生産するだけではなく、農産物の加工による商品開発、さらには流通と販売も組み合わせた販路拡大により農業の魅力と価値を高めて生き残る道を探ろうとしているのです。

このような厳しい農業の現状を支援・改善する法律として、2011年に「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律」(通称「六次産業化・地産地消法」)が施行されました。

この法律は、

  • 農林漁業者による加工・販売への進出等の6次産業化に関する施策
  • 地域の農林水産物の利用を促進する地産地消等に関する施策

の2つを総合的に推進することで、農林漁業の振興等を図ることを目的としています。

1次産業から3次産業までの連携・融合

六次産業化・地産地消法には、農林漁業者(1次産業)が生産・加工・流通・販売を一体的に行うことで事業の付加価値を高め、さらに食品産業や観光産業などの2次・3次産業との連携・融合による新事業の展開や新産業の創出を行うことまでが含まれます。

地域に存在するさまざまな資源を活用して6次産業化を行うことで、農林漁業者の所得向上や雇用確保など農山漁村地域の再生・活性化を狙っています。

この法律に基づき、農林漁業者が単独または共同して6次産業化に関する事業計画を作成して国の認定を受けると、金融支援や農地、出荷等に関する特例といった支援措置を受けることができるようになります。

事業計画の認定数は2022年12月末時点で2,621件となっており、多くの農林漁業者が6次産業化に取り組み始めていることが分かります。

6次産業化による事業は多岐にわたります。最も多い事例は加工・直売で、同じく2022年12月末時点の集計では全体の68.8%を占めます。そのほかにも、農家レストランや通信販売、輸出などの幅広い取り組みが行われています。

 

6次産業化のメリット

6次産業化のメリット

6次産業化によって得られるメリットとはどのようなものでしょうか。事業者と地域のそれぞれの視点から見てみましょう。

収入が安定する

農業が難しいと言われる大きな理由に、自然が相手のために天候や作況によって価格が大きく変動して収入が安定しないという点があります。長雨や日照不足といった天候不順だと作物が不作となり、逆に豊作になれば価格が下がりすぎて出荷調整をしなければなりません。

例えば、6次産業化で加工して付加価値を付けられると市場の価格変動の影響を受けにくくすることができるため、収入の安定化に貢献する可能性があります。

さらに、6次産業化での事業展開を図ると、後述するようにさまざまな支援を受けられる場合があります。資金調達もその一つで、低利融資や税制面での優遇を受けることで初期投資の負担を軽減できます。また、認定事業者になることでより条件の良い融資制度を活用することも可能です。

ブランド化で価格競争を避けられる

農作物にも流行があり、特定の作物が注目されて売れるとほかの産地でも一斉に生産されるようになって価格が均一化します。そうすると、産地間の差異をつけることが難しくなり、価格競争に巻き込まれることになってしまいます。

6次産業化でブランド化を進めるによって、その地域でしか生産することができないという希少性を高め、差別化が図られて価格競争から抜け出すことができます。

さらに、先進的な取り組みを実施することによって、他の地域の流通業者との取引が始まったり異業種とのコラボレーションが生まれて販路の拡大につながる可能性もあります。また、同様の取り組みを行っている事業者とのネットワークが生まれて、情報の共有や課題解決の迅速化につながるかもしれません。

ブランディングへの注力が失敗につながる例も
6次産業化の失敗事例として多いのが、ブランディングに力を入れ過ぎることです。新たな商品を製作する場合、デザインにこだわり過ぎるあまり味のブラッシュアップや販路の開拓がおざなりになって、結果的に売上が立たない例が多くあります。まずはミニマムスタートで売上が出るのを確認したら、その収益の範囲内で見た目を改善していくのも一つの方法でしょう。

地域価値が向上して地域全体の活性化につながる

先進的な取り組みが注目されて地域の知名度が向上すると、その地域の交流人口が増えるかもしれません。そうなると、関連産業だけでなく直接関連がない産業への波及効果も期待できます。

さらに、交流人口の増加による関連産業などへの波及は地域の雇用の創出につながり、地域経済の活性化が期待できます。

多くの支援制度が存在

国は6次産業化を推し進めるために、取り組みの各段階に応じた多様な支援メニューを用意しています。「食料産業・6次産業化交付金」は、これまで「6次産業化ネットワーク活動交付金」という名称でしたが、6次産業化に係る市場規模の拡大に向けて、農林水産業だけでなく食育やバイオマス(動植物から生まれた再利用可能な有機性資源で化石資源を除いたものをエネルギー源として利用すること)といった関連事業も含めた形で集約・再編したものです。

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6次産業化の市場規模は拡大が見込まれており、6次産業化によって生み出される付加価値の多くの部分を地域にもたらすことを目的として、地域内に雇用を生み出す取り組みや施設整備が支援されています。

  • 加工・直売の取り組みへの支援
  • 地産地消をはじめとした食育の推進
  • バイオマス利活用への支援
  • 営農型太陽光発電の高収益農業の実証

これらの4つが主な支援内容ですが、このうち6次産業化に直接結びつく加工・直売の取り組みへの支援には、市町村における6次産業化に関する戦略の策定支援、人材育成、商談会開催支援などが含まれています。

 

6次産業化のデメリット

6次産業化のデメリット

非常に魅力的に見える農業の6次産業化ですが、そこにはデメリットも存在します。

初期投資が必要

新たな事業展開のためには設備などへの初期投資が必要となります。中小事業者にとって初期投資は大きな負担で、チャレンジをあきらめてしまう方も多くいらっしゃいます。

しかし、六次産業化・地産地消法に基づく総合事業計画の認定を受けて認定事業者となると、税制の優遇・低利融資の恩恵を得られます。これにより資金調達の負担が減り、事業拡大がしやすくなるでしょう。

日本政策金融公庫の農業改良資金
低利融資の例では、日本政策金融公庫が認定事業者向けに融資している農業改良資金があります。この融資は、農業者等が利用する機械や建物等の施設を導入したり、農畜産物等の加工や販売を行う施設の改良・造成・取得を行うものが対象となり、返済期間は12年以内で全期間無利子という非常に条件の良いものです。

専門的な知識を持つ人材が必要

農業の6次産業化はこれまでとは異なる分野での事業展開がともなうため、その分野に通じた人材が必要となります。経営人材や加工・営業人員など、多角化を推し進めようとすると、それだけ組織の拡大も避けられないでしょう。

しかし、その負担を少しでも軽減するために、国が6次産業化サポート事業として、専門知識を持ったアドバイザー(6次産業化プランナー)の派遣を行っています。事業発展段階に応じてアドバイスを受けることができるので、非常に心強い制度と言えるでしょう。

また、6次産業化サポート事業の中では、事業可能性調査や外食・中食事業者等における国産食材の活用促進、優良事例の収集・表彰および情報発信も行われています。

法人化が必要な場合も

農業の6次産業化を行うことで活動の幅が広くなり、組織も大きくなると、従来の「家族的な経営」から「企業としての経営」への転換が必要となります。そのための設備投資や就労環境の整備も重要になるため、法人化が必要になるケースも増えていきます。

法人というと信用が増すなどのメリットが想像できますが、維持には思ったよりも多くの負担が生じるなどのデメリットも存在するため、詳しくは以下のページもご覧ください。
農業法人化のデメリット|費用やメリットについても調査! 農業法人化のデメリット|費用やメリットについても調査!

 

6次産業化と農商工連携の違い

6次産業化と農商工連携の違い

農商工連携とは

6次産業化という言葉自体は新しいものですが、農業者が加工・流通を行う商工業者と連携してお互いの強みを活かしながら新商品開発や販路拡大に取り組むという流れ自体は以前からありました。

その一つが、2008年に施行された「中小企業者と農林漁業者との連携による事業活動の促進に関する法律(通称:農商工等連携促進法)」です。

この法律は、農林水産業と商工業等の産業間での連携を強化して相乗効果を発揮させるため、地域を支える中小企業の経営の向上と農林漁業経営の改善を図ることを目的としています。

支援を希望する事業者は事業計画を申請して認定を受けることによって、補助金・低利融資・債務保証・減税措置などの支援策を活用することが可能となります。

6次産業化との主な違い

農商工連携では、条件として中小企業者と農林漁業者が共同して事業計画を作成する必要があります。一方、6次産業化法では農林漁業者だけで作成することが可能なため、事業計画作成のハードルが低くなります。この面では活用しやすい制度と言えるでしょう。

また、支援措置の内容にも違いがあります。農商工連携では、その支援内容は主に金融支援に限られます。一方の6次産業化では、金融支援に加えて農地法、野菜生産出荷安定法や種苗法の特例など、農業を実施するうえでの事実上の規制緩和を含む幅広い支援策が受けられます。

 

多種多様な地域資源に恵まれる日本の農村地域は、6次産業化によって活性化される可能性が大いにあります。ただ、6次産業化を成功させるためには、資金・人材・ネットワークなどを整え、それらをマネジメントする経営力も必要です。国や自治体のサポートを上手に利用し、日本の農家や農業が元気になっていくことを期待しています。